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日中蜜月の間になすべきこと

2018年12月06日

経済調査部 主席研究員 齋藤 尚登

2018年5月の中国・李克強総理の来日、10月の安倍晋三総理の訪中は、それぞれ6年ぶり、7年ぶりの両国首脳による公式訪問となった。戦後最悪といわれた日中関係は劇的に改善し、第三国における日中民間経済協力や金融協力などで大きな進展があった。

なぜ日中関係はここへきて一気に改善したのか、改めて考えてみたい。中国が猛烈に反発し、関係悪化のきっかけとなった2012年9月の日本政府による尖閣諸島の取得・保有については、(当然のことながら)何の変化もない。こうした中での中国による日本の位置付けの変化には、主に中国側の事情、とりわけ政治、外交・国際環境面での変化があったと見る方が自然であろう。

中国の国内政治では、習氏の権力基盤が強化されたことが大きい。戦後、日中関係が最も良好であったとされるのが、胡耀邦政権(1981年~87年)の時代であり、84年10月の国慶節には胡氏が提案した日本の青年3,000人を中国に招待する交流が実現したが、このことが、87年1月に胡氏が総書記を解任された際の「罪状」の一つとされた経緯がある。以来、過度な対日接近政策の推進は、国内反対勢力による攻撃材料とされ得るとの考えが定着した感が強い。トップの党内基盤が脆弱であればなおさらである。

しかし、習氏の権力基盤は強化された。2017年10月の中国共産党第19回党大会では、習氏の指導思想である「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」が、党規約の行動指針として明記された。さらに、2018年3月の全人代は、国家主席・国家副主席の任期撤廃などを柱とする憲法改正案を圧倒的多数で可決した。従来は2期10年を限度としていたが、その任期が撤廃され、習近平政権の長期化の布石が打たれたのである。習近平一強体制が構築される中での日中関係改善には、これが敵対勢力に批判されたとしても、それを抑え込むだけの権力基盤を固めたとの習氏の自信なり、判断なりがあろう。

外交面、あるいは中国を取り巻く国際環境の変化の筆頭は米中関係の悪化である。ここでは経緯は詳しく述べないが、12月1日にアルゼンチンのブエノスアイレスで米中首脳会談が開催され、貿易戦争の一段の激化は当面回避されることになったことにほっと胸をなでおろした向きも多いであろう。米国は2019年1月1日に予定していた中国からの輸入品2,000億ドル分に対する10%の追加関税を25%に引き上げる措置を90日間凍結し、その間に中国による技術移転の強制や知的財産権保護の問題等について協議を行うとした。しかし、米国の狙いが単に貿易不均衡の是正だけではなく、ハイテク、軍事面での優位性を維持・強化することにあることは明らかであり、今後の協議の行方を楽観視することはできない。米中関係が冷え込む中で、米国市場の代替であったり、あるいは米国に対するけん制の意味合いもあり、中国は日本との関係改善を急いだとの見方は、ある程度の説得力を持っていよう。

このように考えると、日中関係改善は中国側の事情に依るところが大きく、こうした政治的・外交的背景が崩れれば揺り戻しも想定されるなど、日中関係の基盤は強固とは言えない。日本の経済界、企業の対応としては、揺り戻しのリスクを想定しつつ、①関係が良好な間に経済面では中国からできるだけ良い条件や譲歩を引き出し、ビジネス環境の改善を図ること、②特に、省エネ・環境など従来「協力」が中心であったプロジェクト等では、しっかりと利益をあげていくこと、③関係が良好な中でも中国への依存度をいたずらに高めることを回避すること、などが肝要になるのではないか。 

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経済調査部
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