2018年11月21日
今年はSDGs(持続可能な開発目標)(※1)への関心が高まった年だったと思う。日本証券業協会が証券業界としてのSDGsへの取組みを昨年から開始したこともあって、最近では証券会社の営業員がSDGsバッジを付けている姿を見かけることも多くなった。
朝日新聞社が行った「SDGs認知度調査第3回」でも、SDGsを聞いたことがあると答えたのは全体で14%と前回の12%から上向いたとのことである。この調査ではSDGsの17の目標への関心についても質問をしており、「気候変動に具体的な対策を」が前回の24%から27%にスコアを上げている(※2)。今夏の殺人的な猛暑や頻発した台風を思い起こすと、仮にいま同じ質問をしたとすると、この調査時点(7月26日、27日)よりも、もっと上昇していたことだろう。
今年の前半に大きな話題になった、マイクロプラスチックによる海洋汚染を防止するための国際的な動きも、SDGsの目標である「つくる責任つかう責任」「海の豊かさを守ろう」に通ずる流れといえる。
SDGsは、企業やそこで働くビジネスパーソンにとって、ある意味では機会であり、ある意味では脅威である。企業活動は、SDGsの諸課題に対して、プラスの影響・マイナスの影響を及ぼし得る(※3)。マイクロプラスチックの例で言えば、代替的な素材を提供する企業はプラスの影響、使い捨て容器としてプラスチック素材を使用する外食企業はマイナスの影響を及ぼす可能性がある。プラスの影響を増加することによってSDGsに貢献することができることはもちろん、マイナスの影響を削減することによってもSDGsに貢献し得る。現在マイナスの影響を及ぼしていたとしても、前向きに削減に取り組むことによって、SDGsに貢献することは可能である。業界他社の取り組みに先んじて取り組むならば、差別化要因にもできる。
今のところ、SDGsという言葉そのものへの認知度は依然として高いとは言えない。しかし、それが目指しているものは普遍的かつ身近なテーマであり、気候変動、海洋汚染といった事象への注目を通じて、否が応でも関心は高まってくるだろう。遅かれ早かれ、避けては通れないテーマだと考えたほうが良い。その時になってから取り組むというのも一つの選択ではあるが、「やって当然のこと」を「やらされている」という気持ちになりそうだ。逆に、いまから始めれば、ポジティブな気持ちで取り組むことができる。きっと、従業員、投資家、顧客、消費者団体といったステークホルダーも味方になってくれるだろう。
(※1)SDGsとは、2015年9月に「国連持続可能な開発サミット」にて採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた17の目標である。
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マネジメントコンサルティング部
主席コンサルタント 吉村 浩志
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