企業年金における会社と従業員の接点

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2018年11月12日

  • データアナリティクス部 主任コンサルタント 逢坂 保一

運用リスク削減を主な目的として企業年金を見直す企業が今年もあった。その内容は、確定拠出年金や確定給付企業年金の新しい枠組みであるリスク分担型企業年金(※1)への移行あるいは導入などであったが、企業年金の制度内容が変わると企業から従業員へその内容が周知される。ここではじめて企業年金の存在や制度内容を知った従業員も多かったのではないだろうか。
制度変更時の説明以外にも会社は従業員へ企業年金に関する情報提供を行っている。制度内容の周知を含む会社が行う情報提供などは、言わば企業年金における会社と従業員を繋ぐ接点であり、制度ごとに異なるが、簡単にまとめると以下のとおりとなる。また、これらをリスクを負う者(リスク負担者)とともに考えるとわかりやすいため、それぞれの制度ごとに示した。

確定給付企業年金(リスク負担者:会社)
・業務概況(財政状況、運用の基本方針など)を年1回以上周知
・運用の基本方針の作成・変更にあたって従業員から意見聴取
リスク分担型企業年金(リスク負担者:会社および従業員・受給権者)
・上記確定給付企業年金の内容に加え、従業員代表者の運用委員会への参画が必須
・受給権者へも従業員と同様の情報提供
確定拠出年金(リスク負担者:従業員)
・継続投資教育(努力義務) 詳細は以下のとおり
確定拠出年金制度の内容、金融商品の仕組みと特徴
資産運用の基礎知識、確定拠出年金制度を含めた老後の生活設計

確定給付企業年金では、受給権保護の観点のひとつとして、企業年金の財政状況を中心に業務概況を従業員へ周知している。将来の年金の原資である年金資産の運用が適正に行われているかチェックを行うためだ。ただ、運用が悪化し積立不足となった場合には、会社の負担となる。
リスク分担型企業年金では、確定給付企業年金の周知項目に加え、受給権者へも従業員と同様の周知が行われる。また、従業員の代表者は運用委員会へ参画する必要がある。これは、従業員や受給権者も一定のリスクを負うためである。財政バランスが崩れた場合には、積立不足を会社が追加負担するのではなく、年金給付を減額する調整を行う。
確定拠出年金は、従業員が運用商品を選択しその運用成果を受け取る仕組みで、運用リスクは従業員が負う。会社は積立不足の穴埋めは不要だが、従業員が資産運用の知識を習得するために、投資教育の機会を提供する義務を負う。

これらは、総じて運用リスクに関しての情報提供となっている。さらに、従業員が関与するリスク度合いにより会社との接点が増加している。本年は従業員との接点が拡大するような改正が行われた。
確定給付企業年金の周知に関しては、厚生労働省の通知において、従業員の関心・理解を深めるためとして、「わかりやすく開示するための工夫を講ずることが望ましい」、「企業の退職金制度の全体像及びその中での当該確定給付企業年金の位置づけを解説すること等も考えられる」と本年4月に改正されている(※2)。その背景には、周知の内容の理解が難しいことや退職時という将来の年金給付に対する関心が薄かったことが推測される。
また、確定拠出年金の継続投資教育については、従来は配慮義務であったが実施率が低かったため、本年5月に努力義務へ改正されている(※3)。

さらに関心や理解を深めるための方策として考えられるのは、確定拠出年金で実施しているような投資教育が有効ではないだろうか。関心を高めるなら「老後の生活設計」であり、理解を深めるなら「資産運用の基礎知識」である。自社の企業年金を活用した老後の生活設計を学び、資産運用の基礎知識を利用して在職中に自助努力の老後の資産形成を行うことも可能だ。
人生100年時代が到来し、退職後の経済的リスクや長生きリスクといった退職後リスクに不安を抱える従業員は今後増えることが予想される。退職後リスクへの対応としても、企業年金を通じ会社が情報提供を行う役割を担い、従業員との接点を拡大していくことが今後期待される。

(※1)リスク分担型企業年金:積立金の変動リスクや予定利率の低下リスクといった将来発生する財政悪化リスク相当額を企業と従業員・受給権者で分担する企業年金である。企業はあらかじめ労使合意したリスクに対応した追加掛金を拠出することで、従業員等は給付を減額することで、それぞれが財政悪化リスクを負担する。確定給付企業年金でありながら、会計上は確定拠出年金として取り扱われる。
(※2)確定給付企業年金に係る資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドライン
(※3)確定拠出年金法等の一部を改正する法律

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逢坂 保一
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データアナリティクス部

主任コンサルタント 逢坂 保一