軽減税率とどう付き合っていくべきか

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2018年10月23日

安倍晋三首相は2018年10月15日の臨時閣議において、2019年10月に予定されている消費税率10%への引上げによる経済への悪影響を抑えるため、万全の対策を講じるよう指示した。本年末にかけて、増税後の耐久財の購入支援やキャッシュレス決済した消費者へのポイント還元などの経済対策が具体化される。

これに関連して、家計や企業の関心が高まっているのが軽減税率制度である。酒類・外食を除く飲食料品と定期購読の新聞に適用される消費税率は、増税後も8%で据え置かれる。対象品目の線引きは明確にされているが、実際に制度が導入されると、当初は困惑することが少なくないかもしれない。例えば、料理酒やみりんの税率は10%だが、みりん風調味料は8%である。ホテルのルームサービスで注文するソフトドリンクの税率は10%だが、客室にある冷蔵庫のソフトドリンクは8%である。ファストフード店で「持ち帰り用」として購入したものを仮に店内で飲食した場合、税率は8%のままである。

また、個々の取引によって適用される消費税率が変わるため、増税から4年間は取引を税率ごとに区分して記帳することが企業に義務付けられ、2023年10月には「インボイス」(税額等が明記された請求書)制度が導入される。多くの企業ではレジの改修やシステムの導入が必要になるだろうが、ICTの利用が特に中小企業で広がることで、経営の効率化が進む可能性がある。

将来を見据えると、軽減税率制度の導入で懸念されるのは対象品目の更なる拡大だ。確かに、海外の制度導入国の中には、水道水や書籍、医薬品、旅客運送、宿泊サービスなどを軽減対象品目とする事例がある。その目的は低所得者対策にとどまらず、国内産業の発展や文化の保護といったものもある。しかし、軽減対象品目を広げれば社会保障財源の確保がいっそう困難になるうえ、一度軽減対象となった品目を標準税率に戻すことは容易でないだろう。政治が不安定になると、国民からの支持を得ようとして、時の内閣が軽減税率の対象品目を増やそうという誘惑に駆られる事態も起きかねない。

軽減税率制度は家計や企業への影響が大きいだけに、制度の効率的な運用や社会保障財源の確保とのバランスが求められる。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司