カナダにおける投資信託手数料規制の動き

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2018年10月17日

  • 小林 章子

2018年9月13日、カナダ証券管理局(Canadian Securities Administrators:CSA)は、投資信託の手数料に関する改正案を公表した(※1)。これはCSAが昨年のコンサルテーション・ペーパー(※2)で提案した「組み込み手数料(embedded commissions)」(※3)の廃止に関して、新たな提案をするものとなっている。
組み込み手数料は、顧客の認識がないまま支払われるため顧客のコストコントロールを困難にするなどの問題点が指摘されてきた。

具体的には、公募のミューチュアル・ファンドにおいて、運用会社等が販売会社に対して下記の手数料を支払うことを禁止する提案がされている。

①前払販売手数料(upfront sales commissions)
②一部のトレーリング・コミッション(trailing commissions)

「前払販売手数料」とは、ファンド購入時に販売会社に支払われる手数料をいう。「繰延販売手数料オプション(deferred sales charge option)」が付いている場合、投資家は最初の販売手数料を支払う必要はなく、運用会社等が支払うことになる。
ファンドの購入から一定期間内に売却した場合、投資家から運用会社等に対して「償還手数料(redemption fee)」が支払われ、運用会社等はこれにより支払った手数料を回収できる形になる。
今回の改正案では、短期間での売却の場合にかかる償還手数料を含む、あらゆる形態の繰延販売手数料オプションについて、禁止することが提案されている(※4)。
当局はこの手数料を禁止すると、運用会社等が販売手数料の調達コストを負わなくなるため、運用管理費用も減少する一方で、他の販売手数料や初回購入オプション(front-end load option)には影響しないとみている。

「トレーリング・コミッション」とは、信託報酬から販売会社に対して支払われる手数料で、顧客へのサービスやアドバイスの対価として支払われるものであるが、一般的に、サービスと無関係に支払われていることが指摘されていた。
昨年の提案では、このような手数料を全面的に禁止した上で、顧客から販売会社に対して、直接手数料を支払う「直接支払方式(direct pay arrangements)」を導入するという抜本的な改正案が示されたが、この提案に対しては、業界から強い反対意見が多数寄せられた(※5)。
そこで今回の改正案では、トレーリング・コミッションのうち、顧客のファンド売買・運用において適合性の判断(suitability determination)を行わないような業者(例えば、注文執行のみを行う業者(order-execution-only dealers)等)に支払われるもののみに限定して、禁止する提案がされている。

わが国でも、投資信託の手数料に対しては、「つみたてNISA」において販売・解約手数料等の徴収ゼロかつ信託報酬等の「実額」の通知が求められることや、顧客本位の業務運営を客観的に評価するための成果指標(KPI)(※6)の要素とされるなど、より厳格な目が向けられつつある。今後の動向に注目が必要だろう。

(※3)トレーリング・コミッションなど、実質的に顧客が販売会社に対して負担する費用のうち、他の手数料に組み込まれて徴収されているもの。
(※4)ただし、過度・短期売買の阻止や運用コストとの相殺などの目的で徴収する償還手数料は禁止されない。

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