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地震大国で考えるキャッシュレス社会

2018年10月15日

政策調査部 研究員 石橋 未来

キャッシュレス社会の到来というが、経済産業省(※1)によると、韓国のキャッシュレス決済比率が89.1%、インドや中国および主要先進国も軒並み40%前後から60%に達する中、日本は18.4%と低い(2015年)。諸外国では偽札問題、脱税問題、印刷・流通コスト削減等の課題に対処するためにキャッシュレス決済が浸透した一方、日本では現金に対する信頼性が高く、店頭での現金取り扱いの煩雑さが少ないことなどが普及を遅らせている。さらに、消費者の不安や実店舗のコスト負担(加盟店手数料や端末設置費用)の大きさも、日本のキャッシュレス化が進まない理由に挙げられる。

諸外国との比較では低位にとどまっているが、日本のキャッシュレス決済比率は一貫して上昇してきた。背景には、金融機関等のコスト削減ニーズの高まりがある。ATMや現金輸送、現金取扱事務の人件費など、現金決済インフラの維持に年間2兆円のコストを要しているとの試算もある(※2)。キャッシュレス化を進めることによるコスト削減は、現金を取り扱っている企業の収益確保にとってはもちろん、社会全体の効率改善に不可欠だ。

キャッシュレス先進国の一つとされるスウェーデンでの普及の一因は、1990年代初頭の金融危機以降、金融機関を中心に生産性向上が求められたことにある。近年は、現金を取り扱わない金融機関の店舗も増え、ATMの撤去も進んでいる。また、キャッシュレス決済比率が高い韓国では、コインレスに向けたパイロットプログラムが2017年からスタートした。硬貨の発行・管理・廃棄のコスト削減による経済効果は小さくないという。このように、利便性の向上による消費活性化はもちろん、コスト削減や新産業の創出の面からも、世界的にキャッシュレス化が進展している。日本でも一層の促進が求められよう。

ただ、今年の北海道胆振東部地震(マグニチュード6.7)では北海道全域が一時停電し、キャッシュレス決済が利用できなくなるという事態が発生した。全域停電から99%(戸数ベース)の復旧までには2日間を要し(※3)、キャッシュレス社会の脆弱性を露呈するかたちになった。その点でいえば、スウェーデンや韓国は地震がほとんどないことで知られ、マグニチュード6以上の地震は、過去100年間で一度も発生していない(※4)。

一方、日本では過去1年間だけでもマグニチュード6以上の地震が5回も発生しており(※5)、豪雨・落雷なども含めて天災による停電が今後も発生する可能性は決して低くないと思われる。「通貨」を意味する英単語の一つにcirculation(循環や流通の意)があるように、決済システムはどのような状況であってもネットワークがつながっている必要がある。コスト削減は重要だが、特に天災が多い日本でキャッシュレス社会を確立するには、よりレジリエントな電力供給体制の整備も条件の一つだろう。

そもそも、現金を贈答する慣行や現金決済の商慣習が一般に残る日本では、よほど工夫しなければ現金の需要は減らない。キャッシュレス社会にするためのコストの大部分が結局は無駄になるという中途半端な状況にならないよう、人々がキャッシュレス決済の利便性や安全性を肌で感じられるような方策が不可欠だろう。

(※1)経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」(2018年4月)
(※2)日本経済新聞(2017年12月24日、電子版)
(※3)日本経済新聞(2018年9月8日、夕刊)
(※4)USGSウェブサイト(2018年10月9日閲覧)
(※5)脚注4と同じ

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