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ベトナムドンと人民元

2018年08月27日

経済調査部 研究員 中田 理惠

「市場の歪み」と「ショック」という単語で検索をかけると、検索結果の上位に出てくるのが2015年8月の人民元ショックである。為替レートの動きを振り返ってみると、当局による市場の圧力を無視した為替安定策が、その後の下落を大きくしたように見受けられる。そして現在、中国とよく似た為替制度を採用しているベトナムにおいて、当時の人民元と似たような動きが起きている。

中国は管理変動相場制を採用しており、中国外貨取引センターが毎営業日に人民元の基準レートを公表し、対ドルでは基準レートから±2%の範囲内で取引を認めている。人民元ショックが発生した2015年8月以前の対ドル基準レートの動きを見ると、極めて狭い範囲でしか変動していなかったが、前日終値のレートを見ると取引時間中は大きく元安へ振れていたことが分かる。しかし基準レートは前日の取引時間中に進んだ元安をほとんど相殺する形で設定されていた。2015年8月11日に当局はレートの算出方法を変更し、基準レートを前日から1.9%切り下げ、前日終値に合わせた。人民元は従前からあった通貨安圧力に晒され、元安が大きく進展した。

現在、ベトナムドンは当時の人民元と似通った動きをしている。ベトナムは中国と同様に管理変動相場制を採用しており、当局が発表する対ドル基準レートから±3%以内での取引が認められている。2018年6月から新興国全般に対する通貨安圧力を受けて、ドンの実勢レート(銀行間で取引されるレート)が下落し、基準レートとのかい離が広がっている。直近では実勢レートは取引可能範囲内で最もドン安の水準で推移している。

介入の原資となる外貨準備高は2018年6月末時点で635億ドルと輸入額の3.4ヶ月分程度であり、介入余力には限りがあると見られる。ドン安圧力を力ずくで抑え込み続けることは難しい。今後も通貨安圧力が続けば2015年8月以来の切り下げに踏み切る可能性もあるだろう。実際に、2015年にドン安圧力が高まった際には、1年で対ドル基準レートを3度切り下げた。それにもかかわらず当時は長い間実勢レートが基準レートを下回り続けてきた結果、実勢レートは基準レートより低いという認識が定着し、基準レートを引き下げるたびに、実勢レートが下がる現象が起きた。管理変動相場制のもと、通貨価値を対ドルで維持させてきた弊害が顕在化したと言えよう。

制度的には当時と大きくは変わっていないため、今回切り下げが行われた場合は2015年当時の状況が繰り返される可能性が高い。より長い目で見た場合、基準レートの変動をより実勢レートの動きに合わせていき、対ドルでの連動性を徐々に低下させていくという改革が必要になるのではないか。為替レートの柔軟性を増すことは、制度的な安定性を高めることになる。

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