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ESG投資は債券にも広がるか

2018年08月21日

金融調査部 主任研究員 太田 珠美

環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Corporate Governance)に関する情報を投資判断に組込むESG投資が注目されている。従来、投資判断には貸借対照表や損益計算書などから得られる財務情報が用いられてきた。近年では非財務情報であるESG情報も企業価値に影響を及ぼし得るという認識も高まっており、財務情報・非財務情報の両面から企業価値を判断する動きが強まっている。

ESG情報は、これまで株式投資の投資判断に用いられることが多かった。ESGに積極的に取組む企業は、そうでない企業に比べて相対的に企業価値の向上が期待され、それは株式の投資リターンにも反映されると考えられるためである。
一方、債券投資においては、これまで信用力に直接影響する可能性のある企業統治(G)以外のESG情報を投資判断に用いる動きはあまり見られなかった。債券投資においては発行体の信用力(債務返済能力)が重視されることや、株主と異なりエンゲージメントが難しく、議決権行使もできないため、投資先企業にESGへの取組みを促すことが困難であることなどが背景にある。

しかし、2015年に独大手自動車メーカーの排ガス規制に対する不正問題が発覚した際は、同社の発行する社債が急落した。環境問題や児童労働問題などへの対応は発行体の信用リスクにも影響を及ぼすことがあり得ることから、債券投資においても環境(E)や社会(S)を含めたESG情報を投資判断に組込む動きが出始めている。例えば、GPIF(Government Pension Investment Fund:年金積立金管理運用独立行政法人)は2017年10月に投資原則を改正し、スチュワードシップ活動(ESG投資への取組みを含む)の対象を株式以外の投資対象に拡大することを表明した。2018年4月には世界銀行グループとの共同研究の成果として「債券投資への環境・社会・ガバナンス(ESG)要素の統合」を公表している。こうした動きからすれば、GPIFは今後債券のESG投資に取組むものと予想される。

また、日本の代表的な格付機関であるJCR(日本格付研究所)とR&I(格付投資情報センター)は2017年に国連のPRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)の“Statement on ESG in credit ratings”に署名し、信用格付にESG情報がどのように考慮されているのか明確化している。ESG情報が信用格付を通じて債券価格に影響を与えていくことになれば、債券投資家はESG情報を投資判断に含めざるを得なくなるだろう。

現状、債券投資におけるESG投資は発展途上にある。先ほど触れたGPIFと世界銀行の共同研究においては、債券投資ではエンゲージメントが難しいことや、信用格付や債券指数においてESGが果たす役割が不明瞭など複数の課題が指摘されている。また、国連のPRIがESGと信用リスク・格付をテーマに2018年6月に公表した報告書では、①環境(E)や社会(S)に関する要素をどのように信用格付に反映させるか、②ESG情報を信用格付に反映させる適切な期間をどう考えるか、③格付機関や債券投資家はESGに組織としてどう対応すべきか、④ESGに関する債券投資関係者(アセットオーナー、アセットマネージャー、発行体、格付機関など)のコミュニケ-ションの改善、といった課題が挙げられた(※1)。

債券におけるESG投資には、広がりの動きがある一方で、様々な課題も洗い出されている。課題を解決しながら広がり続けていくのか、今後の動向に注目していきたい。

(※1)PRIは2017年7月に第1弾、2018年6月に第2弾の報告書を公表しており、今後第3弾の報告書も公表予定である。
第1弾:“SHIFTING PERCEPTIONS: ESG, CREDIT RISK AND RATINGS PART1: THE STATE OF PLAY”(2017年7月)
第2弾:“SHIFTING PERCEPTIONS: ESG, CREDIT RISK AND RATINGS PART2: EXPLORING THE DISCONNECTS”(2018年6月)

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太田 珠美

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