地方産ユニコーンを生み出すための一歩
2018年07月30日
先進国、新興国を問わず、世界各国で、官民を挙げてIoTやAI等の革新的な技術の開発競争が激化し、新たな産業を生み出そうとする動きが活発化している。このようなグローバルな競争を勝ち抜くためには巨額のリスクマネーが必要であり、そのリスクマネーを新たな産業の成長につなげなければならない。
経済産業省は「第四次産業革命に向けたリスクマネー供給に関する研究会」(以下、研究会)を2017年10月に設置し、第四次産業革命における国内外の状況、課題把握とともに、その課題に対応するための方策について検討してきた。この“取りまとめ”が、2018年6月に発表された。その中では、リスクマネーの供給経路として「リスクマネー供給主体」「リスクマネー仲介機能」「リスクマネー供給先」の3点で課題と対応が取りまとめられている。特に、「リスクマネー供給先」では、地域に対する課題に言及し、「全ての都道府県それぞれからユニコーン(企業価値10億ドル超の非上場ベンチャー企業)を創出することを目指して」とされている。さらに、今後の課題として地方のスタートアップ発掘が重要との指摘がある。そのためには、大学発ベンチャーを増やすことが有力だが、地方大学の技術を事業化できていないことについて言及されている。
同省の「大学発ベンチャーデータベース」を見ると、約4分の3の大学発ベンチャーは所在地を東京以外としており、大学発ベンチャーは必ずしも東京に集中しているわけではないようだ。つまりベンチャーを生み出すポテンシャルは地方にもあると考えられる。このポテンシャルを最大限発揮させるためには、地域内のリスクマネーをさらに活用することが重要となる。その方法の一つとしてクラウドファンディングの活用が考えられる。だが、日本のクラウドファンディングは、供給できる投資額の規模が小さいという制約がある。米国と比較すると、投資型クラウドファンディングにおける一人当たりの投資額の上限は低く(※1)、個人の供給できる資金額は少ない。
このため地域金融機関などが資金供給を拡大させる必要がある。最近では、「お金の地産地消」を推進しようと、クラウドファンディング事業者と協業したり、ベンチャーキャピタルを設立するといった地域金融機関の動きが見られる。地方産のユニコーンを生み出せるかはわからないが、地方発ベンチャーの創出・育成のためには、地方の企業、産業に関する豊富な情報を蓄積し、多方面と協業できる地域金融機関による資金供給が“重要な一歩”になることに疑う余地はないであろう。
(※1)日本は発行総額1億円未満、一人当たり投資額50万円以下であるのに対し、米国では、年間発行総額100万ドル以下、①年収または純資産が10万ドル以上である投資家については、総額10万ドルを超えない範囲で、年収または純資産の10%相当額、②年収または純資産が10 万ドル未満である投資家については、2,000ドルまたは年収もしくは純資産の5%相当額のうちの最高額とされている。
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飯嶋 カンナ
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