1. トップ
  2. レポート・コラム
  3. コラム
  4. それでもアメリカに資本は集まるか

それでもアメリカに資本は集まるか

2018年07月26日

調査本部 執行役員 調査本部副本部長 兼 金融調査部長 保志 泰

トランプ米大統領の奔放な発言には、かなり慣れっこになってしまったが、「貿易戦争」と化した通商摩擦がエスカレートすれば、世界のモノの貿易に甚大な影響が及ぶことは確実だ。一方で、今のところ直接的に制限する動きは見られないが、資本取引に対しても何らか影響が及ぶだろうか。

米国は世界の資本取引の最大の結節点であることは疑いない。米国を巡る資本取引が絞られることになれば、極端に言えばリーマン・ショックのように世界の金融資本市場へと広がるリスクも考えなくてはならない。そうしたリスクについて、米国がなぜ資本取引の結節点になっているのか、という観点から考えてみたい。

第一に米ドルが世界の基軸通貨であることが根底にある。貿易戦争に突入したからと言って、ドル建て取引を突然ユーロ建て取引に変えるような行動は起きにくいに違いない。世界の中央銀行の準備資産も依然として米ドル中心である。準備通貨などのバランスを変えようとする動きもなくはないが、大きな変化は想定されない。貿易戦争が起きようとも資本はドルに向けて流入し続ける。

第二に、基軸通貨としての利便性を高める懐の深い債券市場の存在である。米国には、規模が大きく流動性が高い国債市場があるのはもちろんのこと、規模と多様性を兼ね備えた社債市場もある。高格付け債からハイイールド債まで多様なリスク・リターン・プロファイルの存在が世界の運用資金を惹きつけるのである。これだけ多様かつ規模の大きな債券市場は米国以外には存在しないと言って良いだろう。リーマン・ショックの際は債券にも近い証券化商品で構造的な崩壊が起きてしまったが、貿易戦争を発端に何か起こるとは考えにくい。

第三に、資本主義の代表国として、合理的かつ効率的な仕組みが整っていることも挙げられる。例えばベンチャー企業を次々生み出す一方で、M&Aによる企業の新陳代謝が活発である。これが、米国株が長期で上昇トレンドを描き続ける原動力の一つにもなっている。また、外からの資本を惹きつけるだけでなく、米国企業の資金が世界各国へと投下される背景にもなっている。しかし昨今のトランプ政権の通商政策は、ある意味、ビジネスの合理性・効率性を損う政策と言え、米国の魅力を削ぐことにもつながりかねない動きには要注意だ。

そして第四は、実体経済の規模と相対的な成長性の高さだ。資本取引の結節点としては英国やシンガポールなどもあるが、バックグラウンドにある経済規模という点で米国にはかなわない。一方、成長性については、トランプ流の政策が続いたとき見方が分かれるかもしれない。成長を支えてきた自由貿易や移民を抑制することになるからだ。

これらを考え合わせると、懸念すべき点はあるものの、すぐに資本取引を大きく縮小させるほどとは言えない。世界のマネーも「アメリカ・ファースト」をそれほど懸念しているようにはみえない。ただ、安心しきるのは危険かもしれない。何しろ想定外のことが頻繁に起きる現代である。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

保志 泰

執筆者紹介
調査本部
執行役員 調査本部副本部長 兼 金融調査部長 保志 泰