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「金融ジェロントロジー」がより求められる地域はどこか

2018年07月23日

森 駿介

高齢社会における金融サービスのあり方が議論となっている。認知科学や老年学をもとに金融問題を考える学問領域である「金融ジェロントロジー」の進展もあり、認知機能の低下が高齢者の金融行動や経済・社会に与える影響にも関心が高まっている。

例えば、認知機能の低下した高齢者ほど情報処理能力が低下するため、株式などのリスク資産保有を回避する傾向にあるといわれている。高齢者の金融における選択肢の幅が狭まるという個人の問題がある。さらに、今後高齢者の認知症有病率はさらに高まるという予測もあり、将来的には数百兆円の金融資産が認知症の高齢者に保有されるという推計もある。高齢者に偏在した資産がリスクマネーとして供給されにくくなることは経済全体にとって問題だろう。他にも、高齢者にとっては蓄積した資産をいかに取り崩すか、という意思決定も資産が枯渇するリスクの回避のための重要課題だが、認知機能が衰えた状態ではそのような複雑な意思決定は困難かもしれない。

これらの問題に対して、金融機関はどのように対処すべきだろうか。例えば、高齢者の資産管理を親族と連携できるようなサービスの普及が重要かもしれない。その際に、高齢者と親族向けの金融教育の重要性も今後高まると考えられる。さらに、高齢者向けの信託サービスや相続対策を組み込んだ商品・サービスなども資産管理に有用だろう。いずれにせよ、認知機能の低下が高齢者の金融行動や経済全体に与える影響について、より深い理解や対応が求められよう。

では、これらの課題に対して「金融ジェロントロジー」を踏まえた対応がより求められる地域はどこだろうか。ここでは、①65歳以上の認知症患者率が高い地域(※1)、②(世帯主が)65歳以上の世帯が保有する金融資産残高の割合(偏在度)が高い地域、をそのような地域と定義し、都道府県単位での推計を行った。65歳以上の認知症患者率と65歳以上の世帯への金融資産の偏在度は全国平均ではそれぞれ2.1%、46.1%だったが、愛媛(3.5%、46.4%)・香川(3.4%、50.0%)・島根(2.7%、51.8%)・高知(2.6%、52.3%)といった地方圏で、2つの変数が全国平均よりも高くなっている。さらに、高齢者への金融資産の偏在度は相対的に低いものの、東京も認知症患者率が全国で3番目に高い。筆者の推計では、全国の高齢者の金融資産残高の約15%は東京に集中しており、高齢者の認知機能の低下による影響は絶対額で見て大きいと推測できる。先に挙げたいくつかの県に加えて、東京でも認知症や認知機能の低下した高齢者向けの対策が早急に必要ではないだろうか。

参考文献
◆鈴木孝弘・田辺和俊・中川晋一(2018)「都道府県別の高齢者認知症患者率の推定とその要因分析」『東洋大学紀要 自然科学篇』第62号、東洋大学

(※1)65歳以上の認知症患者率の推計に当たっては、厚生労働省「平成26年患者調査」と「平成25年国民生活基礎調査」(認知症)の都道府県別患者数を統合し、用いた。データの制約上、医療機関に通院していない有病者は推定された患者数に含まれていない。

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