コーポレートガバナンス・コード改訂への対応

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2018年06月26日

「当社は、コードの各原則について、全てを実施しております。」とコーポレートガバナンス報告書に記す企業は数多い。東証が、1部2部2,540社のコーポレートガバナンス・コードへの対応状況を調査したところ、改訂前の全73原則をコンプライ(“実施”)していたのは、25.9%(659社)であったという(東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況」2017年7月14日時点)。

しかし、今後全て実施していると回答できる企業は少なくなるかもしれない。2018年6月にコーポレートガバナンス・コードの初めての改訂が行われ、実施が難しそうな項目がいくつも新設されたからだ。

コード改訂の第一の注目点は、政策保有株式について「縮減に関する方針・考え方」を示すべきとされているところだ。改訂前コードは、単に「政策保有に関する方針」を求めていたが、改訂後は縮減を感じ取れる方針を打ち出すべきとされた。東証から公表されたパブリックコメントへの回答では、「『縮減に関する方針・考え方など』を示さない場合には、同原則への『エクスプレイン』として、その理由を十分に説明することが必要です。」とのことだ。

政策保有株以外にも、対応が難しい改訂がいくつもあり、検討を急ぐ必要がありそうなのは、任意の委員会設置の要否だ。補充原則4-10①は、取締役会の機能を高め、社外取締役の貢献を引き出すために、工夫を凝らすことを上場企業に求めている。改訂前コードでは、そのための工夫の一例として、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の委員会を設けることを挙げていたが、あくまでも例示で、任意の委員会以外の方法で取締役会の機能を高めることができていれば、任意の委員会がなくても4-10①にコンプライしているということができた。

しかし、コード改訂により、ここが例示規定ではなく、必須という位置づけに変更された。任意の委員会を設置していなければ、4-10①にコンプライしたことにならなくなったのだ。東証1部2部上場企業のうち、任意の委員会を設けていないのは、1,800社ほどで、これらの企業がコードの全てに対応していると言い続けるには、任意の委員会を設置するための検討を速やかに始める必要がありそうだ。

改訂で新設された補充原則4-3③では、「取締役会は、・・・(中略)・・・CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続を確立すべきである。」とされており、さらにパブコメへの回答では、「こうした手続は原則3-1(iv)に基づき開示すべき事項の対象となるものと考えられ、上場会社においては、主体的に情報発信を行っていくことが求められます。」とされており、CEO解任手続きに関する何らかの開示がない場合、その理由をエクスプレインすることとなろう。

原則4-11では、取締役会構成メンバーの多様性を求めていたが、改訂で、多様性の前に「ジェンダーや国際性の面を含む」との文言が入った。「ジェンダーや国際性の面についての多様性を確保することが必要でないと考える場合には、その理由を説明することとなります。」とパブコメへの回答は記しており、少なからぬ企業で、説明を検討する必要が生じよう。

3月決算会社の当面の対応としては、改訂前コードに対応するコーポレートガバナンス報告書を定時総会後にいったん提出し、改訂後のコードに対応する分は、遅くとも2018年12月末日までに提出することとされている。ここに記したように、改訂コードへの対応では、簡単にいかないところもあり、早め早めに社内関係部署での検討を進める必要があろう。

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執筆者紹介

政策調査部

主席研究員 鈴木 裕