サマリー
◆AI技術の急速な進化を背景に「ソブリンAI」が再び注目されている。ソブリンAIとは、国や企業が自国・自社のデータや技術基盤を活用し、外部への依存を最小限に抑えつつAIシステムを自立的に開発・運用する能力を指す。その根幹には、「データ主権」や「技術的自立性」の確保を目指し、自らのデータを自国・自社で管理・運用するという戦略的な姿勢がある。
◆国や企業はAIを戦略的に活用する段階へと移行しつつある。その結果、①データ主権および安全保障の確保、②技術的自立性の確保、③国内産業の強化、④文化・社会的適合性の確保など、AI技術を外部へ依存することによる多面的な課題が浮上してきた。米中による技術覇権争いが続く中、EUや韓国など第三国では、AI基盤モデルの開発力強化やインフラ整備、人材育成などを柱とした政策的取り組みが加速している。
◆日本においても、信頼できるAIの開発支援を盛り込んだ「人工知能基本計画(AI基本計画)」の策定が進められている。骨子では、技術的自立性の確保を目指し、日本語や産業データの整備、民間連携による研究開発体制、高性能AI半導体などのインフラ強化などが挙げられている。これらの取り組みを通じて、国内のAIエコシステムの構築および国際競争力の強化を図る方針だ。
◆実現に向けては、技術・人材・資金面で多くの課題がある。AI関連技術の優位性の獲得・維持には継続的な研究開発が不可欠であり、必要な環境の整備や運用コスト、人材確保などの負担も大きい。民間企業が単独で持続的な体制を構築するには限界がある。今後は、国際的なルール形成や、他国との連携・協力を通じた競争力強化と技術的自立性の確保の両立を目指しつつ、官民が連携してAIエコシステムを構築し、実効性のある制度運営を通じて競争力を高めていくことが重要となる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
2025年12月日銀短観予想
輸出不振や原材料高で製造業の業況判断DI(最近)は悪化を見込む
2025年12月10日
-
2025年7-9月期GDP(2次速報)
設備投資などが減少し、実質GDPは前期比年率▲2.3%に下方修正
2025年12月08日
最新のレポート・コラム
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
FOMC 3会合連続で0.25%の利下げを決定
2026年は合計0.25%ptの利下げ予想も、不確定要素は多い
2025年12月11日
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
12月金融政策決定会合の注目点
2025年12月12日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

