インバウンド:日本版DMO本格稼働への期待
2018年06月14日
2017年の訪日旅行者数は2,869万人を記録し、今年も4月末時点で既に1千万人を超えている(※1)。政府は地方創生への切り札として、2020年に訪日旅行者数を4千万人に増やす目標を掲げ、30年には6千万人を目指している(※2)。国内需要の縮小が見込まれる中、訪日旅行がもたらす経済効果に寄せる期待も大きく、旅行消費額を20年に8兆円、30年には15兆円に拡大させることも目標としている(図表1)。17年の訪日旅行者数の実績は、20年目標4千万人の7割以上、30年目標6千万人についても5割近くを達成している。一方、旅行消費額は政府目標との隔たりが大きく、17年の4.4兆円という実績は、20年目標8兆円の半分余りにとどまり、30年目標の15兆円に対しては3割にも満たない水準にある(※3)。
近年の訪日旅行では、アジアからの旅行者を中心に、「観光・レジャー」を目的とする旅行が大きく増加してきた。17年の訪日旅行では、アジアからの旅行者が全体の86.1%を占め、訪日旅行者の74.9%が主な旅行目的として観光・レジャーを挙げている。近隣の国や地域から、観光・レジャーを目的として訪れる旅行者は、滞在期間が短いことも多く、旅行者数が増加しても消費額は伸びにくい面がある。旅行消費額の伸び率を見ると、「爆買い」が話題になった15年以降は勢いが衰え、17年の伸び率は17.8%にとどまっている(図表2)。もっとも、旅行者数の伸び率も15年を境に低下しており、為替水準の変動や観光地間の競争などの影響が強まれば、増勢を維持することが難しくなっていく可能性もある。
20年目標の訪日旅行者数4千万人で、8兆円の旅行消費額を達成するためには、1人当たり20万円の旅行支出が必要になり、30年目標の6千万人で15兆円とすれば、1人当たりの旅行支出は25万円という計算になる。ところが、訪日旅行者1人当たりの支出は、15年の17.6万円から17年は15.4万円まで減少している(図表3)。減少は買物代に限らず、宿泊料金や飲食費などにも及んでおり、いわゆる「安・近・短」の旅行者が増えることで、旅行支出の平均が低下する構造が広がってきたことが示唆される。これまでの延長線上で、観光・レジャーを拡大させるだけでは、旅行消費額で政府目標を達成することは期待しにくい。訪日旅行を地方創生への切り札とするためには、新たな段階への道を拓く戦略が求められているといえよう。
折しも、予て多数の候補法人が名乗りを上げてきた日本版DMO(Destination Management /Marketing Organization)の登録が始まり、今年3月30日時点では70の法人が登録されている(※4)。日本版DMOとして登録されるためには、多様な関係者を巻き込みながら、データに基づく明確なコンセプトを持った戦略を策定し、その戦略を実行するための仕組みや機能を備えることなどが要件となる。これまで観光産業を担ってきた関係者だけでなく、教育や保健・医療、スポーツや文化などの分野も巻き込めれば、地域が提供する価値が広がり、明確な目的を持った旅行者や滞在者を惹きつけやすくなる。各地に誕生した日本版DMOの本格稼働により、訪日旅行の新たな段階への道が拓かれることが期待される。
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