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観光立国と地域活性化:Sojournという選択

2016年09月23日

リサーチ本部 主席研究員 兼 社会連携担当 岡野 武志

2015年の訪日外国人旅行者数は2千万人近くに達し、今年に入っても増加基調は続いている。その傍ら、訪日旅行者1人当たりの旅行支出は、15年第3四半期(3Q)の18.7万円をピークに減少に転じ、16年2Qには16.0万円に縮小している(図表1)。政府は2020年に訪日旅行者数4千万人、旅行消費額8兆円を目標として掲げ、30年にはそれぞれ6千万人と15兆円を目指している(※1)。しかし、2020年や30年の訪日旅行者数が目標に達したとしても、1人当たりの旅行支出が現在と同程度の水準で推移すれば、その時の旅行消費額の目標を達成することは難しい。

図表1:訪日旅行者数う(棒グラフ:左軸)と1人当たりの旅行支出(折れ線グラフ:右軸)の推移

買物需要は、相手国の経済状況や規制・制度、為替水準の変化などに影響を受けやすく、いわゆる「爆買い」にも変化がみられる。訪日旅行者に人気の高い商品には、越境ECによる購入や現地への輸出、現地生産なども広がっており、モノに依存した観光振興には限界もある。一方、訪日旅行拡大に寄与してきた近隣の国・地域からの旅行者は、観光・レジャーを目的とする短期滞在の比率が高く、買物代を除いた旅行支出は相対的に小さい(図表2)。滞在期間の長期化や旅行消費の拡大という観点では、観光資源の磨き上げや観光地域のネットワーク化など、移動型観光の魅力を高める取り組みに加え、逗留型旅行(Sojourn:ソウジャーン)の受け入れを広げていくことも有効であろう。

図表2:訪日旅行者数の平均泊数(横軸)と買物代を除く旅行支出(縦軸)

ここでいう“Sojourn”は、特定の目的を持って、同じ地域に一定期間滞在する旅行を指す。2015年の訪日旅行者のうち、およそ3割(推計約6百万人)は、観光・レジャー以外を主な目的として日本を訪れており、その数は前年比15.7%増、13年との比較では27.9%増えている。特定の目的を持つ訪日旅行は、滞在期間が長く、旅行中の支出が観光・レジャーを上回ることも少なくない(図表3)。これまでのところ、業務関連の旅行や親戚・知人訪問、留学を目的とする旅行などの比率が高いが、コンセプトを明確にして受入環境を整備し、情報発信を進めれば、高い技術を持つ医療・保健サービスの利用、課題先進国日本での調査・研究、武道や茶道、華道等の修行など、幅広い分野にSojournが広がる可能性もある。

図表3:旅行目的別1人当たり旅行中支出(2015年)

必ずしも有名な観光資源に依存しないSojournは、コンセプト設定の工夫次第で、幅広い地域で受け入れに取り組むことができる。1泊2食型のサービス提供を前提としなければ、稼働率が低い宿泊施設や空き家・廃校、民泊などの有効利用も考えられる。訪日旅行者を惹きつけるコンセプトや環境が整えば、その価値を国内旅行者にも提供することはそれほど難しくない。もとより、伝統産業や農林水産業の就業体験、ボランティア活動や企業研修など、国内からもSojournにはさまざまな需要があり得る。市場規模が大きい国内旅行でも潜在的な需要を掘り起こせれば、さらなる地域活性化の効果も期待できる(図表4)。

図表4:旅行消費額の推移

かつては国内旅行でも、湯治や避暑、創作活動などを目的としたSojournは珍しくなかったが、いつの頃からか観光・レジャーを目的とする慌ただしい旅行が主流になった。しかし、国籍や年齢、学歴や職業、性格や経験などの異なる人々が、同じ地域で同じ時間を過ごし、相互に刺激して高め合うことができれば、新たな価値や多様な価値の創造につながる可能性もある。人工知能やロボットの活動領域が広がり、働き方や暮らし方が変わることが予想される中、日常の業務や生活を離れたSojournは、新たな出会いや体験を通じ、何かを深く考える機会となり、将来のために行動する時間にもなるかもしれない。

(※1)「『明日の日本を支える観光ビジョン』を策定しました!」観光庁

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リサーチ本部
主席研究員 兼 社会連携担当 岡野 武志