インバウンド:持続可能な地域づくりの戦略へ

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2018年03月27日

  • 岡野 武志

2017年の訪日外国人旅行者数は、前年比465万人(+19.3%)増加し、過去最多の2,869万人を記録した(※1)。訪日旅行に伴う消費額も、前年比17.8%増加して、過去最高の4兆4,162億円に達した(※2)。訪日旅行の訪問先は各地に広がり、地域への影響も次第に大きくなっている。一方、訪日旅行者数の変化率などを時系列に比較すると、旅行者数や消費額は量的な急拡大の時期を過ぎ、巡航速度の成長期に移行してきたように見える(図表1)。1人当たりの旅行支出も、15年にピークをつけた後は伸び悩みが続いており、訪日旅行を地域の活性化に結び付ける取り組みは、新たな段階に差し掛かってきたように思える。

宿泊者数の動向を都道府県別に見ると、訪日旅行者の訪問先は、これまで旅行者が少なかった地域にも広がっていることがうかがえる(図表2)(※3)。観光インフラや受入態勢が未整備な地域で旅行者が増えれば、宿泊施設や交通サービスの不足、観光スポットやその周辺の混雑などにつながりやすい。多様な国や地域から幅広い層の旅行者が訪れるようになると、文化や習慣の違いが目立ち、マナー違反や環境への悪影響などが問題になることも少なくない。国内からの旅行と合わせてみると、延べ宿泊者数が伸び悩む地域や減少している地域も多く、見た目の賑わいに反して観光地域は疲弊している可能性もある。

旅行消費の4割近くを占める買物代は、景気動向や為替水準などの影響を受けやすく、人気が高い商品は、現地生産や現地への輸出、越境ECなどにも展開されやすい。もとより、地域外で生産された商品が大量に購入されても、地域に残る利益はそれほど大きくない。近隣の国や地域からの旅行者は、滞在期間が短いことも多く、買物代以外の支出は限られている(図表3)。SNSなどの情報に誘われ、写真や動画を撮るために訪れる旅行者は、支出が小さいだけでなく、ブームが去ればその数は減っていく。費用をかけて受入態勢を整備しても、地域への恩恵が小さければ、地域の活力を維持することは次第に難しくなる。

かつての日本では、外国人が地域の魅力を見出し、観光地や別荘地として整備が進み、国内有数の観光地域に発展した例は少なくない。そのような地域は、観光から滞在や居住が広がることで、地域に新たな魅力が加わり、人々を惹きつけるブランドに成長している。交通網や情報通信機能が発達した今日では、人や物の移動は容易になり、働く場所・住む場所の自由度も高まっている。新たなブランドとなる潜在的な候補地は、かつてより広がっているといえるであろう。訪日旅行の拡大を商機と捉えるだけでなく、持続可能な地域をつくる戦略を立て、実現に向けて動き出す時期が来ているように思える。

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