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かぼちゃの馬車と目利き融資

2018年05月29日

金融調査部 主任研究員 鈴木 文彦

事業性貸出の返済財源は事業から得る収益金だ。担保や保証人は万一のためのもので返済財源では決してない。事業性に問題なければ、オーナー個人が潤沢な預金を持っていようがいまいが本来関係ない。新人のころ先輩に教わった融資審査の基本だ。

アパートローンの審査も基本は同じで、家賃収入から諸経費を差し引き残ったキャッシュを返済に充てるのが原則。家賃相場を見積もり、将来の空室率を織り込んで収支見通しを作り、木造であれば耐用年数の22年内で完済可能か審査する。建物が傷むよりも仕様が時代遅れになるほうが早いので、投資の回収期間はもっと短いほうがよい。家賃保証が付くときは保証会社の信用力を審査するのが基本だ。全期間保証してくれるとは限らない。定期的な修繕が保証継続の条件になることもあるので注意が必要だ。

収支見込が厳しく融資申込みを受け入れがたいこともある。むろん担保があれば貸せるという話ではない。担保代わりに回収不能リスクを織り込んだ高い金利で貸すという考え方もあるが、利払いが嵩めば収支はますます厳しくなる。採算割れのリスクを抱えてまで事業を進めるべきか悩ましい。「貸すも親切、貸さぬも親切」ということわざが頭に浮かぶ。他方、担保がなくても、保証がなくても、当面赤字で信用力に乏しくても簡単に断らず、業績向上の可能性を評価して貸すべきという考え方もある。人口減少社会で縮むパイをめぐり優良案件にこだわっても仕方ない。ミドルリスク案件を果敢に開拓する必要があるのだ・・・。

これがアパートローンであれば、目先の家賃収入に多少不安があっても、将来の増収を期待させる新たなビジネスモデルがあればそれを積極的に評価すべきという論理になろう。最近、一風変わったアパート経営が耳目を集めた。人材紹介業を兼ねたアパート開発業者が新築アパートをオーナーから借り上げ、就職先を求めて地方から上京した若者に格安でアパートに住まわせる。入居者に仕事をあっせんし、紹介先企業から紹介料を得る。その紹介料の一部を借り上げ家賃としてオーナーに支払う。紹介先企業から得た紹介料とオーナーに支払う家賃の差額が利益になる。オーナーは空室リスクを気にせず毎期定額の家賃を得ることができる。

仕事を求め若い人材が東京に集まってくる。慢性的な人手不足で就職市場は売り手優位だ。そのような中、人材紹介料を収入源とする新発想のアパート経営にリスクだけでなく将来性を感じた人もいたに違いない。つくづく事業の目利きは難しい。失敗すれば銀行は担保不足の程度に応じて損失を計上することになる。将来性を重視したからといって世間が大目に見てくれるはずもなし。リスクへの挑戦が称賛される一方、気がつけば馬車はかぼちゃに戻っていたということか。あらためて融資審査の基本をかみしめる。

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鈴木 文彦

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金融調査部
主任研究員 鈴木 文彦