“遊び”をなくしても生産性は上がらない

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2018年04月26日

  • 調査本部 常務執行役員 調査本部 副本部長 保志 泰

昨今の働き方改革など組織内の問題に対する厳しい追及を見て、つい“最近はやりにくい世の中になった”“昔はもっと伸び伸びしていた”などと内心思っているオジサンも少なくないと拝察する。しかし、この改革の流れは決して一過性のものではない。過去の常識は忘れ去らなくてはならない。

働き方改革には様々な側面があろうが、女性を含めて働き手を増やすと同時に、個々の従業員の負担を軽くしていこうという取り組みだと捉えることができる。いわゆる「シンギュラリティ」(AIが人間を超える)に対する危機感も加わり、真剣に取り組んでいる企業も増えているように思われる。

ただ、日本企業はとかく形式主義に走りがちである。統制を取り始めると度が過ぎる傾向もある。労働投入量を減らす中でアウトプットを拡大させようと、組織内の「遊び」をなくしていこうとするが、例えば「残業禁止」にするといったある意味短絡的な行動も起こり得る。そうした企業の中には、窮屈に感じている従業員もいるだろう。

企業を機械になぞらえて、従業員を「会社の歯車」と表現するようになったのは、もう何十年も前からだ。歯車は自分の好き勝手動くことはできず、全体の一部の動きを担うだけである。ただ、歯車にはゆっくりと回るものもあれば、高速回転しているものもある。マイペースで働く人もいれば、頑張って働きたい人もいる。今の動きは、すべての歯車に対して同じくらいのスピードで回れと言っているようにも聞こえる。

また、歯車がスムーズに回転するには、一定の「遊び」が必要である。「遊び」のないギアボックスはうんともすんとも動かなくなるのが落ちだ。企業も同じで、生産性を上げるためには従業員に対して一定の自由度を与えるほうが効果的だろう。ベンチャー企業がその典型で、一つの目標のもとに各人が自律的に働く環境にあるがゆえに、イノベーションが醸成されるのではないか。(そもそもベンチャー企業に「歯車」などという表現そのものが不適切だろうが)

とはいえ、働き方改革が進めば、働き手の多様性を高めて「遊び」を増やすことにもつながると期待される。そこに向けての過渡期にあると捉えれば、今の窮屈は我慢すべきなのだろう。オジサンたちは、ノスタルジーを心の底にしまわなくてはならない。くれぐれも若者を前に昔の常識など持ち出さぬようご用心を。

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保志 泰
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