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訪日外国人の増加は近畿地方の地盤沈下を食い止めるのか?

2018年04月18日

経済調査部 主任研究員 溝端 幹雄

先日、大阪にある百貨店の店舗が半世紀以上ぶりにその百貨店で最も高い売り上げを記録したとの報道があった(※1)。大阪周辺を訪れる訪日外国人の増加が売り上げに貢献したことが原因とのことだが、東京と比べて地盤沈下が進んでいると言われる近畿地方にとっては久しぶりに嬉しいニュースである。

しかし、近畿地方の人材流出の傾向は変わらない。2011年の東日本大震災後に一時的に人材が流入する動きはあったものの、その後、近畿地方(大阪圏(※2))からの人材流出は再び続いている(※3)。

近畿地方の雇用と所得の状況を空間的(地域的)に子細に把握するため、グラフは2015年の近畿地方の全市町村の失業率と納税者1人当たり所得(名目)について、全国平均=100としてプロットしたものだ。全国平均と比較することでその時々の景気の影響を除去しており、各市町村の相対的な雇用・所得の状況が把握できる。

まず、近畿地方で所得水準が全国平均を上回る市町村はそれほど多くなく、大阪や兵庫などの一部の都市のみで全国平均を上回っていることが分かる。もちろん、過疎地を多く含む府県では全国平均より下回る割合は多くなるが、特に和歌山の全ての市町村では所得水準が全国平均を下回っており、近畿地方で最も所得環境が厳しくなっている。

次に、近畿地方の失業率は全国平均よりも高い市町村が多い。特に大阪は、所得水準はそれなりに高いものの、平均的に失業率の高い市町村が多い傾向にある。

さらに、近畿地方の地域内所得格差についてはどうだろうか。府県内の所得格差が激しいのは兵庫・京都・奈良・大阪であり、大阪を中心とする都市圏で格差が大きい傾向にある。一方、和歌山・滋賀・三重の地域内の所得格差はそれほど大きくはない。特に滋賀や三重は失業率も低く、雇用が安定している。これらの地域は競争力のある製造業の比率が高いことに特徴がある。ただし、それが必ずしも高い所得に結びついていない。和歌山は近畿地方で最も地域内の所得格差が小さい地域であるものの、自動車のような需要の多い産業との関連が薄いため失業率にばらつきが見られ、それほど雇用は安定していない。

このように地方でも需要の多い産業に雇用をシフトさせて雇用を増やすことは重要だが、地方の持続的な成長を促すには、雇用や所得が全国平均から大幅な乖離が生じないようにすることが大事である。それには、地方でも生産性を引き上げ、所得を高める努力が必要だろう。ただし、従来の産業政策のように地方に生産性の高い製造業を誘致すれば良いということではない。

生産性を高めるには、イノベーションにより高付加価値を生み出す、能力の高い人材を地方に引き留める環境整備が重要だ。地方で大胆な規制改革を行い、特色のあるビジネス環境を創りだすことができれば、高いベンチャー精神を持つ有能な人材が集まり始めて、中長期的には地方を活性化する起爆剤になりうる。さらにそうした人材の定着を促す、教育などの住環境の整備も併せて重要だ。

現在、国家戦略特区やレギュラトリー・サンドボックス制度の議論は下火になっているが、地方でこそ、都市圏では規制の縛り等でできないビジネスを呼び込む必要があるだろう。今回、近畿地方を例に挙げたように、足元では訪日外国人の増加は地方経済を潤し始めているが、それだけでなく、全国の地方でも高度人材の定着やその他生産性を高める斬新なビジネス環境および優れた住環境の整備が求められる。

(※2)大阪・兵庫・京都・奈良の4府県を指す。
(※3)総務省「住民基本台帳人口移動報告」。

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溝端 幹雄

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