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Spotify(スポティファイ)直接上場の行方

2018年03月28日

金融調査部 主任研究員 太田 珠美

2018年4月3日、スウェーデンの音楽配信会社であるSpotify(スポティファイ)がニューヨーク証券取引所に上場する予定だ。通常、未上場企業が株式を新たに取引所に上場させる場合(以下、新規上場)、公募増資や、創業者・従業員・ベンチャーキャピタルなど(以下、既存株主)が保有する株式の売出しが同時に行われるため、発行体が事前に選定した幹事証券会社が投資家の需要を調査するなどして公募価格を決める。そして、事前に株式の購入を希望する投資家にこれらの株式を配分した上で、上場日を迎える。今回、Spotifyはこうした公募増資や売出しを行わない、ニューヨーク証券取引所で初となる“直接上場(Direct Listing)”に挑戦する。

“直接上場”は、通常の新規上場に比べ、発行体が証券会社に支払う手数料を抑えることができる。一方で、①上場直後は少数の既存株主のみが売り手となる(どの程度売却されるかわからず、流通株式数が極端に少なくなる可能性がある)、②買い手(投資家)の需要が読めない、③公募価格がないため株価の適切な水準がわからない、④ロックアップやオーバーアロットメント(※1)をはじめとする株価形成の安定化策が取られない、といったことから、上場後は株価が乱高下する可能性が高い。通常の新規上場でも株価の乱高下は見られるが、“直接上場”は投資家層の厚みや流動性が通常の新規上場に比べて乏しい分、株価が落ち着くまで時間を要することも考えられる。

Spotifyが“直接上場”を選択した理由を4点指摘したい。1点目は、今回の上場が資金調達を目的としていないことだ。仮に上場時および上場後の株価が想定を大きく下回ったとしても、Spotifyの資金調達計画には影響しない。2点目は、Spotifyは世界的に知名度が高く、成長が期待されている企業であり、証券会社の販売力に頼らなくても投資家の需要が相応に見込めることだ。3点目は、これまでも非公開市場(相対)ではSpotify株式は取引されており、その取引価格が上場後の株価の1つの目安になり得ることだ。米証券取引委員会(SEC)に提出された申請書類(Form F-1)によれば、2018年2月時点でSpotifyの普通株式は95ドルから127.5ドルで取引されている。4点目は、通常の新規上場では既存株主にロックアップが課せられることだ。“直接上場”の方が、既存株主にとっては株式処分がしやすい面がある。

“直接上場”をする企業は今後増えていくのだろうか。Spotifyの新規上場が円滑に行われれば、追随する企業は増えるかもしれない。米国に100社以上存在すると言われるユニコーン企業(企業価値が10億ドルを超える未上場企業)は、知名度もあり、未上場でありながら、投資家から資金調達を行うことが容易であると言われている。既存株主が自らの投資分の資金回収をしたい、というだけであれば、“直接上場”を選択する可能性は十分ある。

一方、日本で“直接上場”が広がるかというと、少々状況が異なる。制度的な問題はさておき、日本の新規上場は規模の小さい企業の新興市場への上場が圧倒的に多く、また資金調達を目的とする新規上場が多い。安定した資金調達を望むのであれば“直接上場”は選択肢になりにくい。

証券取引所の役割は、売買の流動性を高めることと、価格発見機能を発揮することだと言われているが、Spotifyの上場において、証券取引所はその役割を十分に果たすことができるか。注目だ。

(※1)ロックアップは創業者やベンチャーキャピタル等、上場前からの主要株主に一定期間売却制限をかけることであり、オーバーアロットメントは主要株主から事前に株式を借り受けておき、投資家の需要が強い時にはその分を追加で売出すこと。いずれも上場後の株価形成を安定させるための措置である。

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太田 珠美

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金融調査部
主任研究員 太田 珠美