習近平一強体制と「生活の質的向上」
2018年03月23日
第13期全国人民代表大会(全人代)第1回会議は3月11日、国家主席・国家副主席の任期撤廃などを柱とする憲法改正案を出席者の99.8%の賛成で可決した。従来の2期10年の任期が撤廃されたことで、習近平一強時代の長期化の布石が打たれたことになる。3月17日に行われた投票では、習近平氏は全人代出席者2,970名の満票を以て国家主席に再任され、王岐山氏は僅か1票の反対票で国家副主席に選出された。
しかし、一般市民の思いは異なるようである。憲法改正案が公になるやSNSでは、様々な言葉の書き込みができなくなった。専制、終身制、独裁、即位、皇帝、私は反対、不同意、車がバックする…などであり、風貌が似ているとされる、「くまのプーさん」だけでなく、プーさんが手に持つ「はちみつ」(権力を象徴)さえも書き込み不可となったという。こうした言葉が書き込み不可とされること自体、当局が一般市民の反発を警戒していることの表れである。毛沢東氏は1945年に党主席に就任し、1976年に没するまでその地位にとどまり、晩年には文化大革命を引き起こした。そのトラウマもあって権力の永続化につながり得る、国家主席・国家副主席の任期撤廃に対する一般市民の不安や反発はやはり大きいのであろう。
こうした中、習近平氏は、不満や反発を力で抑え込むだけではなく、一般市民を納得させるための成果を上げる必要に駆られている。5年後に続投待望論を醸し出すための強いインセンティブが働くのである。広く人心を掴むには一般市民の「生活の質的向上」が不可欠であり、全人代の政府活動報告では、貧困脱却や環境汚染対策の強化などにより、国民生活を改善させるとした。2018年は財政支出増などによって1,000万人以上を貧困から脱却させることが目標に掲げられ、同様に大気汚染物質の二酸化硫黄と窒素酸化物(NOx)の排出量を3%減らし、水質汚染物質の化学的酸素要求量(COD)とアンモニア性窒素排出量を2%減らすとした。さらに、国務院の機構改革で退役軍人連絡部が新設されたのは、経済発展の恩恵に与かりにくい人々へのケアを強める意図があろう。
「生活の質的向上」では医療、健康、食の安全、介護、教育など、人や生活にやさしいテーマが重視される。全人代の政府活動報告では、中国経済は「高速」成長段階から「質の高い」発展段階へと転じているとされた。その中でも「生活の質的向上」は政治的な観点からもその重要性が際立っているのである。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

- 執筆者紹介
-
調査本部
主席研究員 齋藤 尚登
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
26年度最低賃金改定のポイント①
高市政権はより緩慢な引上げを容認/改定内容への説明責任が焦点
2026年07月09日
-
米国:AI関連投資の持続性を左右する3つの要因
①ハイパースケーラーの収益化志向、②「循環資金」が内包するリスク、③レバレッジ型ETFによる変動拡大
2026年07月09日
-
2026年3月期有報の人的資本開示①
既存欄と新設欄(人材戦略に関する基本方針等)の情報分散に課題
2026年07月07日
-
不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(TISFD)の第一草案を読む
「社会(S)」情報開示の新たな展開が日本企業に示唆すること
2026年07月07日
-
一段と進む円安 — 日米金利差との連動性低下が示すドル円相場の新局面
2026年07月08日

