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「Society5.0」と農業の未来

2018年02月21日

金融調査部 主任研究員 中里 幸聖

アニメ映画『君の名は。』(新海誠監督)が、テレビ朝日系列で1月3日に地上波初放送されたが、ご覧になっただろうか(※1)。2016年のわが国での興行収入成績1位、歴代邦画の興行収入2位(2018年2月12日現在。洋画なども入れると4位)の作品である(興行収入成績の順位は、興行通信社のウェブサイト「CINEMAランキング通信」より)。


今回の地上波初放送では、作品に関連付けたCMも話題になった。最初のCMが新海誠監督と通信教育の「Z会」のコラボCM『クロスロード』であり、その他にソフトバンクの特別バージョン、Netflixの『DEVILMAN crybaby』の特別映像などがあった。さらに『君の名は。』のヒロインの声優を務めた上白石萌音さんが田舎暮らしの女子高生に扮した「Society5.0」の政府広報も流れた(※2)


「Society5.0」では、『君の名は。』の実写化かと思わせるような冒頭シーンの後、ドローン宅配、AI冷蔵庫、AIスピーカー、遠隔医療、無人トラクター、会計クラウド、自動走行バス等がCMのストーリー展開に入れ込まれていた。政府が『君の名は。』にかぶせてきたCMをすること自体が驚きであり、わが政府は洒落がわかるなと、ついほほ笑んでしまった。と同時に仕事の関係上、個人的には無人トラクターと自動走行バスに目を惹かれた。


自動走行バスは過疎地の公共交通問題を解消する可能性を持つ。また自動走行バスが実現する段階となっていれば、自動走行トラックなども実現していると思われ、人口減少が続くわが国における構造的な人手不足の緩和にも貢献するであろう。


無人トラクターは、後継者難の農業生産現場に変革をもたらすだけにとどまらず、農業の企業化をさらに促進する設備の一つでもある。


無人トラクターを物理的かつ効果的に活用するには、農地の大規模化が望まれよう。また無人トラクターの導入コストは高価であると推測され、ランニングコストを低下させて、ライフサイクルコストで見た費用対効果を高めるためには、やはり農地の大規模化が望まれる。小規模家族経営の農家よりも組織化され大規模化した農業生産者の方が、そうした活用方法を実現しやすいと思われる。


また、無人トラクターをはじめとするSociety5.0で実現するであろう農業機械への設備投資には、多くの資金需要が発生すると予想される。つまり農業金融の出番が増える可能性がある。足元では、農業に対する融資残高は日本政策金融公庫とJAバンクが大半を占め、民間金融機関の融資残高は十数%にすぎない(農林中央金庫「農林漁業金融統計」より計算)。しかし、無人トラクターが普通に利用されているような社会になれば、今よりも民間金融機関が活躍する場面も増えるのではないだろうか。


先日刊行した『変わる!農業金融 —儲かる“企業化する農業”の仕組み—』(日刊工業新聞社、2018年2月)は、Society5.0には触れていないが、わが国で進みつつある企業化する農業、その動きを後押しする農業金融の可能性などについて論じている。Society5.0の動きとは別に、農業経営の組織化、大規模化、企業化の流れは動き出している。数年後の農業と農業金融の方向性に関心がある方にぜひ手にとってもらいたい。


(※1)中里幸聖「『君の名は。』『シン・ゴジラ』と国土強靱化」(大和総研コラム、2016年11月9日)も参照。
(※2)最新の政府の成長戦略は、「未来投資戦略2017-Society5.0の実現に向けた改革-」(平成29年6月9日)とSociety5.0という用語がサブタイトルに入っており、内閣府による「Society5.0」に関するウェブサイトも立ち上がっている(本文リンク先参照)。同ウェブサイトによると、Society 1.0は狩猟社会、同2.0は農耕社会、同3.0は工業社会、同4.0は情報社会、同5.0は超スマート社会とのことである。

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