企業はESGにいかに対峙するべきか

RSS

2018年02月07日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 宮内 久美

2017年後半くらいから、ESGに対する企業からの相談が増えている。「ESGとはなんですか?」「何をすればいいのですか?」といった基礎的なものから、ESGの優良企業として評価されるためにアドバイスが欲しいといった具体的なものまで、その相談内容は様々である。


一方、企業に投資する機関投資家側の動きも急速に変化がみられる。欧米に比べて遅れていたESG投資への取り組み体制整備が進み、ESG投資が活発化しているのである。従来、株価パフォーマンスに対する影響を評価しにくいとして、日本の機関投資家のESGへの関心は一部のファンドにとどまっていた。しかし日本のESGへの投資は、運用残高で2014年の70億ドルから2016年4740億ドルと、ここにきて急拡大している(全世界では2014年18兆ドル→2016年22兆ドル)(※1)


ESGの考え方自体には古い歴史があり、決して新たなトレンドというわけではないにも関わらず、なぜ今なのか、その一因として昨今のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の動きがあると思われる。


GPIFは我が国の公的年金の管理・運用を行っている公的機関で、運用資産額は162兆6723億円(平成29年度第3四半期末)(※2)。その規模から世界最大の機関投資家と呼ばれ、その動向が株式市場に与える影響は絶大である。GPIFは、2015年国連の責任投資原則(PRI)に署名、2017年7月からはESG指数に1兆円の本格投資を開始するなど、近年、投資対象企業の評価の土台として、ESGを含む非財務情報を重視することを明確に示してきた。この結果、GPIFが運用を委託する金融機関がESGを重要な評価項目として企業と対話し、企業に対してESGの取り組み強化を求めるという流れが、日本においても本格的になってきたと言える。


このような急速な変化の中、企業はどのようにESGに取り組むべきなのか。ESGが幅広いテーマであるだけに、困惑してしまう企業も多い。しかしこのESG重視の動きは、企業側にとっても企業価値を高める機会となると考えられる。


従来、機関投資家は短期間の株価パフォーマンスを得るため、企業業績を重視する志向があった。企業は、投資家や株主の求めに応じようと短期の業績結果や財務の見映えを良くすることに注力しすぎてはいなかっただろうか。


ESGはこのような財務指標重視を見直し、本来あるべき企業の存在意義を問うものである。それは何も難しいことではなく、事業を営む企業にとっては当たり前に行ってきたことも多い。例えば、ESGで取り組むべき事柄は創業の理念や企業行動規範、CSRレポートの中に組み込まれているものもある。ただ、会社の中で不文律であったり、各所に散在していたりで、このままでは外部のステークホルダーにはわかりづらい。この機会を活用して、ESGに関わる取り組みを整理し、自社の事業を通じて社会全体に対してどのような価値を提供していきたいのか、またそのために不足しているものは何かを明らかにし、改めて示す必要がある。外に対してのアピールだけではなく、会社の存在意義や使命を再確認し、社員への浸透を図る絶好の機会として、前向きに取り組んでいくことが望まれる。


(※1)Global Sustainable Investment Alliance(GSIA),「Global Sustainable Investment Review 2016」
(※2)年金積立金管理運用独立行政法人,「平成29年度第3四半期運用状況」

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

宮内 久美
執筆者紹介

コーポレート・アドバイザリー部

主任コンサルタント 宮内 久美