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中国:きれいな空気と「一強」への行きすぎた忠誠の弊害

2017年12月21日

経済調査部 主席研究員 齋藤 尚登

12月初旬に、北京市、重慶市、四川省成都市を訪問する機会を得た。北京市と重慶市は山に囲まれているため、汚染された大気が滞留しやすく、特に、北京市は石炭燃焼による暖房設備が稼働する11月15日以降、大気汚染が一段と深刻化するのが常であった。成都市の関係者は「洗肺游」(肺洗浄の旅)という言葉を紹介していた。きれいな空気が日本への旅行の魅力の一つとなっているという。


ところが、北京市、重慶市、成都市の空気はともに比較的きれいで、各種サイトで確認できるPM2.5の濃度もかなり低かった。


北京市では「今年は寒い」という話をよく聞いた。厳冬というわけではなく、石炭の使用制限や天然ガスの供給不足で暖房が普段通りには使えないのだという。5年に1度の党大会の開催年である今年は、統制や党の指導が例年以上に厳しく、環境規制も一段と強化されている。中国政府は、2017年10月~2018年3月の北京市、天津市、河北省など6地方のPM2.5の平均濃度を15%以上低下させることなどを目標に掲げた。前年比で15%以上低下、というのは極めて厳しい目標設定である。このため、汚染物質を多く排出する一部工場の操業の停止だけではなく、石炭の使用を極端に絞ったのである。


しかし、現状を無視したやり方では弊害が大きくなり、事態は混乱する。各地方政府は、石炭燃焼の際に排出されるPM2.5の濃度を劇的に下げるために、天然ガスによる暖房に切り替える世帯数等の上乗せを図ったが、①石炭の使用を極端に絞った結果、天然ガスの需要が一気に増加して供給不足となり、天然ガスの価格が急騰した、②石炭の使用が抑制されるなか、河北省の一部などガスの供給体制が未整備な地方では数百万人以上が氷点下のなかで、暖房のない生活を余儀なくされた、③その後、家庭用のガス供給を優先した結果、産業用のガス供給が滞り、一部で肥料などの生産がストップした、といった混乱が多く報道された。結局、中国政府は石炭の使用を認めることで事態の収拾を図っている。


何故、このようなことが起きるのか?党大会で習近平総書記の権力基盤が強固となるなか、地方政府や官庁が、こぞって「一強(習近平総書記)」への忠誠を示そうとしていることがその背景にあるのではないだろうか。「上に政策あれば、下に対策あり」とは、地方政府が中央政府の指示を聞かない「面従腹背」を表す言い回しであるが、これも状況は変わってきたようである。中央の指示を地方がよく聞くようになったのは良いことだが、それが政策本来の意図を逸脱し、「一強」へのアピール合戦の様相を呈してくれば、今度はその副作用が大きくなったり、政策が効きすぎるリスクに留意しなければならなくなる。


2018年は「一強」と「その他(官庁、地方政府)」の関係に、どのように折り合いをつけていくのかが、経済安定にとっての注目点の一つとなろう。

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経済調査部
主席研究員 齋藤 尚登