自動運転最前線の地で見えない日本のソフト企業

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2017年11月28日

日本政府は自動運転車実用化に取り組む姿勢を鮮明にし、2020年に「安全運転支援装置・システムが、国内車両(ストックベース)の20%に搭載、世界市場の3割獲得」、2030年に「安全運転支援装置・システムが、国内販売新車に全車標準装備、ストックベースでもほぼ全車に普及」というKPIを設定した(※1)。民間でも、国内自動車メーカートップのトヨタが自動運転車に関する進捗状況やビジョン、戦略を公表(※2)するなど、国内での自動運転車開発は順調に進んでいるように見える。


ただ、自動運転車開発で世界の最先端を行く地域と言えば、やはり米国カリフォルニア州だろう。同州車両管理局(DMV)は、2014年から公道で自動運転車の実証実験を行う事業者を認可する“Autonomous Vehicle Tester Program”を行っている。当初は従来の自動車メーカーやサプライヤーといった事業者が認可の大半を占めていたが、近年はWaymo社、Tesla Motors社をはじめとした新興(図表注参照)の事業者が増えている。


認可事業者を最終親会社の所在国別に見ると(図表)、45社中、米国26、中国7、ドイツ5、日本3、フランス2、ハンガリー・韓国各1となっている。新興事業者だけに絞れば、30社中、米国22、中国5、ハンガリー・フランス・韓国各1であり、自動運転のコアとなるAIや車載用OSなどの自動運転技術(ソフトウェア)の開発に特化したベンチャー企業が多い。米国勢を除くと、中国勢が伝統的・新興のいずれの事業者も参加している一方、日本の新興事業者の参加は確認されない。


日本は世界的な自動車メーカーが多く、ソフト開発事業者は国内で自動車メーカーと連携している、あるいは海外で実証実験を行うことによる技術流出を懸念している、などといった事情があるのかもしれない。ただ、シリコンバレーは様々な分野の多様なプレーヤーが広く集まることでより開発が進む「オープン・イノベーション」が促進されており、カリフォルニア州の実証実験に日本のソフト開発事業者の参加が見られないのは残念だ。


認可事業者で興味深い事業を行っているのが、オンライン教育サービスのUdacity社(米国)だ。同社はオンラインで自動運転技術開発のエンジニアになるための教育コースを提供しており、同コースの学位取得者に自動運転車を1台用意し、自動運転シミュレーターをオープン化して幅広く利用可能としている。このような教育コースの整備やオープン化はオープン・イノベーションの促進につながると考えられるが、日本では今のところそうしたサービスは見当たらない。日進月歩の技術だけに、人材教育や交流の場が増えることが喫緊の課題だろう。

米国カリフォルニア州“Autonomous Vehicle Tester Program”の認可事業者リスト(現地2017年11月16日時点)

(※1)首相官邸「未来投資戦略2017 -Society5.0の実現に向けた改革-」(2017年6月9日)
(※2)トヨタ自動車「トヨタ自動車、Toyota Research Institute, Inc.における自動運転技術等に関する開発の進捗状況を公表-自動運転に関するトヨタの考え方を記した『白書』も併せて公開-」(2017年9月27日)

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