ホンダF1に見る自前主義とオープンイノベーションの葛藤

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2017年10月17日

2017年9月、ホンダとマクラーレンは今シーズン限りでフォーミュラ・ワン世界選手権(F1)での提携を解消することを発表した。ホンダは2015年からF1に参戦し、老舗チームのマクラーレンにエンジンを供給している。マクラーレンとの提携は2回目で、初めて提携した1990年前後、両社は圧倒的な強さを誇っていた。その再現を目にする前に提携が解消されるのは本当に残念だ。

提携解消の要因は様々あるようだが、参戦から2年以上経ってもホンダのエンジン性能がライバルメーカーに追いつけなかったことが一因であるという。現在のF1エンジンはモーターとのハイブリッド型で「パワーユニット」と呼ばれている。エンジンから出る排熱やブレーキ時に発生するエネルギーを電気に変えてモーターを回すといった複雑な構造を持ち、ガソリンの使用量などに厳しい制約があるため、パワーとエネルギー効率の両面で極めて高い技術が要求される。

ライバルに遅れて参戦したホンダは、その差を早急に縮めるべく、ユニークなコンセプトで設計を行った。しかし十分な性能が実現しなかったため、参戦3年目の今年、ライバルと同じコンセプトのパワーユニットを導入した。独自の技術を開発し、一定水準まで向上させるには試行錯誤と時間が必要である。だが、レース結果が経営に直結するマクラーレンにとって、2年以上も表彰台から遠ざかる状況を受け入れ続けることはできなかったようだ。

これまでの経緯を振り返れば、ホンダは外部の技術やアイデア、人材を有機的に結びつけて成果を上げる「オープンイノベーション」を重視すべきだったのかもしれない。自前主義は技術開発能力の向上や人材育成といったメリットがある半面、厳しい競争下で技術革新のスピードが速く、限られた時間で成果を出さなければならない環境では、所期の目的を達成できないリスクがある。

これはF1に限った話ではない。グローバル化の進展や、AIやロボット、IoTなどの技術の急速な進歩が見込まれる中、多くの企業は自社だけで対応することが難しくなっている。自前主義とオープンイノベーションは相反するものではなく、補完関係にあり、状況に応じて両者をうまく生かす発想がいっそう求められる。

ホンダはすでにオープンイノベーションに積極的であり、今夏からはパワーユニットの性能や信頼性が着実に向上している。来シーズンから3年間はトロロッソというチームと提携することが決まった。かつての強いホンダが戻ってくることを心から期待したい。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司