マナーの不思議と生産性
2017年09月28日
受動喫煙防止を法律で強化する話は、解散総選挙で再び紆余曲折のようだ。たばこが健康に良くないことは昔から言われていたが、私が子供の頃、大人たちはあらゆる場所で喫煙していた。筆者はたばこを吸わないが、最近では禁煙や分煙が進んでスモーカーの方々のマナーは格段に向上したと思う。人々の健康を維持し増進させることは、生産性を向上させる成長戦略でもある。
受動喫煙対策の強化に賛成するが、何事も法律で一律的に規制することには議論がある。強行規定をもって臨まないと解決できない社会課題がある一方、日本の国民性を考えれば、自由を基本にしても十分に互いを尊重する社会を形成できるという考え方もある。人に迷惑をかけないのはもちろん、権利の裏側にある義務を踏まえた行動を人々がとっている社会とは、快適な生活や円滑な経済取引のためのソーシャル・キャピタルがあるということだ。
もっとも法令に書いても守られないマナーもある。小学生の時に、交通安全協会が主催する地域の自転車大会(安全走行・技能走行・学科)で優勝したことが私の小さな自慢だが、道路の右側を走行する自転車や歩行者に交じって横断歩道を走行する自転車、猛スピードで歩道を走行する自転車が多いのは残念である(例外的に歩道を走行できるのは自転車通行可の標識がある場合や運転者が13歳未満または70歳以上の場合などに限られ、いずれにせよ歩行者優先である)。自転車は健康と環境を志向する乗り物だけに、危険な現状は何とかしてほしい。
歩きスマホ対策も急がれる。本来は便利で生活を豊かにするはずのスマートフォンが事故の原因になったのでは不幸である。その危険性は明らかであり、米国のホノルル市で、罰金付きの歩きスマホ規制が今秋から導入されることが話題になっている。スマホを見ながら歩くのは迷惑でもあり、筆者も駅の中で前を歩く人が歩きスマホでゆっくりだったおかげで電車に乗れなかった(時間が無駄になり生産性を落とした)経験がある。
電車と言えば、最近はリュック型のビジネスバッグでの通勤が増えているようだ。両手が空くから機能的だし、それで腰痛が予防できるなら合理的である。腰痛や肩こりが緩和すればプレゼンティーイズム(出勤しているが、健康上の何らかの問題が存在するために業務効率が落ちることで生じる損失)も減り生産性にプラスである。しかし、大きなリュックを背負ったまま満員電車に乗っている人が少なくない。鉄道各社がマナー違反だと啓発してはいるが、その認識は広がっていないようだ。
電車では携帯電話での通話はしないようにという放送をよく聞くが、車内で人にぶつかってでもスマホの画面を叩き続けている人が多いのだったら、車内での通話を解禁してはどうか。混雑時には通話しない、大きな声では話さないなど、それこそマナーの問題だろう。何のためのモバイルかを考えれば、生産性を上げるせっかくの機能を正しく使わないというのは不思議な話だ。
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調査本部
常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
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