生鮮食品、ネットで買いますか?
2017年07月24日
週に数度、近所に八百屋や鮮魚店の移動販売が回ってくる。昔から馴染みの高齢者たちが野菜や魚を購入しているようだ。歩いて数分の距離にスーパーもあるが、この辺りの高齢者は、生鮮野菜や生鮮魚介は移動販売で、それ以外の食料品や日用品はスーパーで、と使い分けているようだ。
食料品の中でも、生鮮食品は取り扱いが難しいと一般に言われている。完全に殺菌する方法がないという衛生管理上の困難さがあるためである。消費者に安全に届けるには、新鮮であることはもちろん、病原微生物の増殖や品質の劣化を防ぐなど、徹底した衛生・温度管理が求められる。
鮮度や安全性が重視される生鮮食品については、消費者側も、手に取り目で確認できる実店舗で購入するケースが多いようだ。二人以上世帯全体の7割がスーパー、1割が一般小売店(八百屋、鮮魚店などの個人商店)で生鮮食品を購入している(※1)。しかし、こうした状況が変わる可能性がある。
今年に入って米系ネット通販大手が生鮮食品の宅配サービスを都市部で開始したほか、今秋からは国内大手総合スーパーが、オフィス向け用品などの通信販売会社と共同で、生鮮食品を宅配するサービスを開始するなど、生鮮食品のネット通販事業への参入が加速している。鮮度管理を徹底することで、ネット通販でも生鮮食品の取り扱いが可能なようだ。
企業がネット通販に力を入れる背景には、インターネット経由の買い物、いわゆるネットショッピング自体の急増がある。2002年にインターネットを通じて買い物をした二人以上世帯の割合は、全体の5%程度だったが、2016年末時点では30%を超えるまでに増加している(※2)。また、インターネットを利用して買い物をした世帯のネットショッピング額(名目)も同期間中に2.4倍(2016年12月時点で34,865円/月)に拡大している。ネットショッピングを行う世帯では、すでに支出の1割以上をネット経由の消費に充てており、生鮮食品についても、ネットショッピングが活用される余地は大きいと言えよう(※3)。
ただし最大のネックは、食料品の中でも特に生鮮食品(生鮮魚介、生鮮肉、生鮮野菜、生鮮果物)は、どこで買うのかをすでに消費者が決めてしまっている点と思われる。例えば、年齢階級別の生鮮食品の購入先を見ると(2014年)、60歳未満の世帯ではスーパーがほとんどであるが、60歳以上の高齢世帯ではスーパーの割合が7割以下に低下し、一般小売店の割合が上昇する。中には、市場などに直接出向いて購入するようなケースもあるようだ。そして、こうした購入先は、10年前と比較してもほぼ変わっていない(例えば、2004年の40代→2014年の50代)(※4)。生鮮食品については、鮮度や安全性を重視する消費者が多いため、信頼のおける馴染みの購入先で求める傾向があるようだ。冒頭の八百屋や鮮魚店がいまだに出入りしているのも、そうした理由からであろう。
しかし、まだ馴染みの購入先を決めていないような若い人々にとっては、生鮮食品をネットで購入する心理的ハードルは低く、むしろ隙間時間を活用して手軽に買い物を済ませることができるという利点の方が大きく映るかもしれない。鮮度や安全性を万全に管理できる体制を消費者へ十分に伝えることができれば、ネットショッピングに精通する若い世帯を中心に、生鮮食品のネット通販が日常となる可能性もあるだろう。
(※1)総務省統計局「平成26年全国消費実態調査」
(※2)総務省統計局「家計消費状況調査」
(※3)現状、生鮮食品をネット通販で購入する二人以上世帯の割合は0.5%である(総務省統計局「平成26年全国消費実態調査」)。
(※4)ただし、「生協・購買」の割合については、生協の購買事業実施組合数の減少に伴い、全体的に低下している。
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- 執筆者紹介
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政策調査部
主任研究員 石橋 未来
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