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地政学のシステミックリスクが高まる?

2017年05月11日

金融調査部 主席研究員 内野 逸勢

“システミック地政学リスク” との言葉を目にするようになった(※1)。脚注に挙げた記事によれば幸いなことに“稀”というのが通説であるとされている。この理由として、同リスク自体の直接的な影響は顕在化した地域に限定されるとされ、伝播してグローバルに影響を与えることはないということが挙げられている。歴史を紐解けば、グローバルに拡大する波及メカニズムを持つ地域リスクは、経済不況あるいは原油価格の大幅下落などの経済的リスクのみであると思われるが、原油価格大幅下落などによる経済的ショックは、地政学リスクの顕在化が影響した事象であると考えられよう。ただし、最近では、ある地域の難民問題、テロ等の発生によって地政学リスクが顕在化し、直接的に先進国の政治にも影響を与えるようなグローバルに波及するメカニズムを持ち始めたという説も有力になりつつあるとされている。

この背景には地政学リスクへの注目が高まっていることもあるようだ。例えば、ウクライナ紛争、尖閣諸島問題等による日中関係の緊張の高まり、ISIS(イスラム国)の台頭などが見られた2014年を節目に、市場に影響を与えるリスクを捉えるためには、経済的な考え方(”economic way of thinking”)よりも地政学的な考え方(”geopolitical consideration”)の優先度合が高まっていると言われている。フランスの有力紙であるル・モンドの2014年の年間レビューが「2014年に、経済的な考え方は、地政学リスクを真剣に検討することに直面した時から崩壊したようだ」との文章から始まっていることを挙げ、地政学リスクの重要度が増していることを指摘する論文が見られる(※2)

その一方、フランスの経済学者、トマ・ピケティ氏の『21 世紀の資本』の英語版が出版され、大きな反響を呼んだのも2014 年である。地政学リスクの顕在化の本質的な問題を認識するためには、同氏が指摘する経済的格差(≒経済的な考え方)を踏まえる必要があろう。経済的な考え方、地政学的な考え方のどちらが重要かではなく、様々な視点からバランスの取れた考え方が重要ではないだろうか。

例えば、多くの欧米諸国では、これまでの右派・左派・中道派という対立軸ではなくグローバリゼーションの推進者か保護主義者かという政治“思想”が対立軸の中心になってきた現象がみられるが、この背景にも経済的格差の問題が解消されていないことがあろう。経済的格差の問題とは、前述のピケティ氏を含めて様々な識者の意見を集約すると、1)年齢階級を問わず中間所得層の衰退と貧困層の拡大、2)所得の再分配政策が有効に機能しなければ、少子化や人口減少の進展により相続資産格差が拡大・固定化する——ことの2つと言えよう。

さらに、上記の1)の中間所得層の衰退に関しては、先進国と発展途上国との経済的な関係も考える必要があろう。先日、「東京会議(※3)」というG10 の先進国の主要シンクタンクの会議に出席する機会を得たが、「自由主義と国際秩序をベースとしたグローバルシステム」と「保護主義による自国第一主義」の対立の背景には、先進国の各国内の所得格差の拡大・固定化とともに、中間所得者層が中国を中心とする新興国の台頭によって、これまで享受してきた所得の安定が脅かされていることがあるとの指摘があった。同時に、生産性において比較優位にある国がグローバルで固定化していく一方、劣後している国では、国内の産業の構造的問題の取り組みが進まず、自国の利益とグローバルの利益のバランスを保ちにくい構造になっていることも指摘されていた。

最後に、冒頭のシステミックリスクの話題に戻ろう。経済的考え方、地政学的な考え方の二極化はポピュリズム的な“単純化された考え方”に結び付きやすく、これが新たなシステミックリスクの正体ではなかろうか。グローバルな問題が複雑かつ多様化している中、自分自身を戒める意味でも肝に銘じておきたいと思う。

(※1)例えば、Financial Times, “Geopolitical risks will cause markets to bend before they break”, April 13, 2017
(※2)"The Return of Geopolitical Risk -Russia, China and the United States-" BY THOMAS GOMART, DIRECTOR OF IFRI, April 2016
(※3)今年の3月3日~5日に行われた言論NPO主催の国際会議。G7に加えインド、ブラジル、インドネシアの3か国の主要シンクタンクの代表が、世界が直面する課題を討議。

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内野 逸勢

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金融調査部
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