日米両国で検討される株主提案権の濫用規制
2017年03月16日
株主提案権は、株主総会の議案を株主から提案できる権利で、多くの国々で導入されている。この権利が行使されると、株主が株主総会に諮るべきと考える議案を株主総会招集通知に記載し、会社側の費用で株主に周知するとともに、会社側の事務負担によって賛否を集計することとなる。
権利の内容は各国でかなりの違いがあり、相当大量の株式を保有する株主でなければ権利を与えられない欧州の国々では、法律上規定があったとしても絵に描いた餅にすぎないこともある。そうした中で、米国と日本は、保有株式要件が緩く、比較的自由に様々な提案が株主から出される国だ。それだけに独りよがりな株主提案が多く見られ、株主一般の利益に反する恐れがあるものや、さほど多くの株主の関心をひかないものもある。果たして費やしたコストに見合うだけのベネフィットがあるのか、疑問視されるようになっている。
わが国では、既に昨年3月に法務省から委託調査報告「株主提案権の在り方に関する会社法上の論点の調査研究業務報告書」(※1)が出ている。また、昨年10月に株主総会実務担当者の団体である全国株懇連合会が、「企業と投資家の建設的な対話に向けて~対話促進の取組みと今後の課題~」(※2)を公表しており、提案趣旨の一つに「株主提案権制度のあり方を再考し、必要に応じて制度改善の提言も行うこと」を掲げた。こうした中、法制審議会に「企業統治等に関する規律の見直しの要否を検討」(2017年2月9日法制審議会第178回会議「会社法制(企業統治等関係)の見直しについて」)するよう諮問が出されており、株主提案権についても、テーマの一つになるのではないかと思われる。
米国では、大企業の社長をメンバーとするBusiness Roundtable(以下、BRT)が2016年10月に “Responsible Shareholder Engagement & Long-Term Value Creation(責任ある投資家と長期的価値創造)”(※3)を公表し、株主提案権の適正化を訴えた。その後の選挙で誕生したトランプ政権の国家経済会議に対してBRTが出した、2017年2月の書簡でも、SEC(証券取引委員会)による対応と必要があれば立法的解決も進めるべきと提案した(※4)。
米国では毎年数百社に株主提案が出され、日本では40社ほどという違いはあるものの、「株主一般の利益と関係のない社会的政治的な議案」(脚注4のBRT書簡)が少なくなく、「一部の株主により濫用的ともいえる行使がなされることによって、当該一部の株主以外の大多数の株主と企業との建設的な対話が阻害されるおそれがある」(脚注2の全国株懇連合会の政策提案)との懸念は共通している。会社側が株主総会に割ける労力や時間には、限りがある。株主提案権は、会社と投資家の対話のための道具の一つではあるものの、不適切な利用が目に余るようであれば、見直しは必要だろう。株主一般の利益を図るための株主提案権の在り方についての検討が始まろうとしている。
(※1)法務省「株主提案権の在り方に関する会社法上の論点の調査研究業務報告書の公表について」
(※2)全国株懇連合会「企業と投資家の建設的な対話に向けて~対話促進の取組みと今後の課題~」
(※3)Business Roundtable “Responsible Shareholder Engagement & Long-Term Value Creation”
(※4)Business Roundtable “Letter to the White House on Top Regulations of Concern”
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- 執筆者紹介
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政策調査部
主席研究員 鈴木 裕
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