"バーゼルⅣ"の合意延期、争点は?
2017年02月15日
2017年1月3日、バーゼル銀行監督委員会は、1月上旬に予定していた「バーゼルⅢの最終化」の合意を延期する旨を明らかにした。代替スケジュールは伏せられている。
「バーゼルⅢの最終化」は、主に信用リスクアセット(RWA)の算出方法の見直しをいい、その影響度合いの見込みから、巷では“バーゼルⅣ”と呼ばれている(※1)。
RWAの算出方法の見直しは、標準的手法と内部格付手法の双方で提案されている。
標準的手法の見直しでは、株式、劣後債、住宅ローンのリスク・ウェイトの引上げが提案されている。
内部格付手法の見直しでは、金融機関向け債権、大手法人向け債権、株式保有における標準的手法の採用義務付けに加えて、資本フロアの参照水準を現行のバーゼルⅠから見直し後の標準的手法に変更する旨が提案されている。
それでは、“バーゼルⅣ”の合意延期の理由、すなわち争点はどこにあったのだろうか。
一連の報道(※2)によると、どうやら資本フロアの水準が争点となっており、そこで合意に至らなかったというのが延期の理由のようである。
資本フロアの水準は、参照水準の「75%」が提案されていたという。すなわち、内部格付手法採用行のRWAは、見直し後の標準的手法で算出したRWAの75%を下回ってはならない、という提案である。
なお、この水準は2021年の時点で「55%」、2025年の時点で完全実施となる「75%」とする段階的実施も併せて提案されていたという。
この水準の資本フロアにより大きな打撃を受けるのが、フランス、ドイツ、オランダ、北欧諸国の金融機関であるという。というのも、これらの国の金融機関は、住宅ローンや法人向け債権のRWAを内部モデルによって最小化しているからである(※3)。
これに対して、米国の金融機関においては、資本フロアによる打撃はほとんど見られないという。というのも、米国の金融機関の場合、住宅ローンはほとんどバランスシートになく(※4)、コーポレートファイナンスも資本市場で直接行われているためである(※5)。
こうしたことから、“バーゼルⅣ”については、米国が推進し、欧州が反対するという図式ができ上がっている。
しかし、この図式についても、米国のトランプ大統領の就任により、不透明になっているという(※6)。というのも、トランプ大統領のグローバル金融規制に対するスタンスが不明確だからである。
そのため、“バーゼルⅣ”の新たな合意時期については、最短で3月が見込まれていたものの、それよりも先になる可能性もあろう。
(※1)FT.com“End of GHOS train: global regulators must reconnect or die”[2017年1月2日]等参照
(※2)FT.com“Basel postpones bank reform vote amid policy differences”[2017年1月3日]等参照
(※3)Bloomberg“Global Bank Capital-Rule Revamp Postponed as Europe Digs in”[2017年1月3日]等参照
(※4)ファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)やフレディ—マック(連邦住宅貸付抵当公社)といった政府支援法人(GSE)を通じた証券化による。
(※5)Bloomberg“Why German Banks Took Stand Against Basel Capital Floors”[2017年1月3日]等参照
(※6)WSJ.com“Global Financial Regulation Faces Uncertain After Trump’s Order”[2017年2月6日]等参照
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