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ジニ係数が高い米英と「ポスト・トゥルース政治」

2017年02月02日

金融調査部 主席研究員 内野 逸勢

トランプ大統領の言動に注目度が高まっている。今後、「米国第一主義」の方針の下での様々な政策がアメリカを一つにしてよりよい方向に進むことを望む。しかし、現時点まででは、大統領就任直後の支持率が過去最低の45%という報道(米調査会社ギャラップ)がなされ、一つのアメリカにまとまりきれていない“分断”された現状が浮かび上がってくる。この“分断”を生んでいる要因として経済的格差が挙げられている。下記図表から、この格差を示す一つの指標であるジニ係数を見ると、OECD平均よりも高い先進主要国の筆頭はアメリカであり、Brexit決定後の対応に揺れるイギリスが次に位置する。

アメリカにおける“分断”の経済的格差以外の要因としては、「真実」あるいは「事実」に立脚しない、あるいは歪められた“情報”=“嘘の情報”も指摘されている。例えば、明確な根拠もなく漠然と“感じていた事実”に基づく低所得層にとって有利な政策を支持する有権者と、“感じていた事実”は“嘘”と認識している有権者の間では、通常では起こり得ない“不必要な分断”が生まれることとなる。イギリスの場合にも、Brexitの支持者が国民投票前の国民に主張していたEU加盟に伴うデメリットは、国民投票後に、根拠のない“嘘の情報”であることが判明したことから、EU離脱の是非を問う国民投票におけるイギリスの“分断”も同様のことが言えよう。恐ろしいことに、政治家あるいは候補者の“感じた事実”をもとに生まれた“不必要な分断”により、国の未来を左右する国民の選択が行われたとも言える。

“感じた事実”を重視した政治を表す言葉として「ポスト・トゥルース政治」がある。昨年9月10日のThe Economist では、ポスト・トゥルース政治を“Art of the lie”として表現している。つまり、通常、政治家の“嘘”は“事実の解釈に基づく不正確な情報=間違った情報(=過失的な偽り)”であるが、完全な“嘘の情報”を創造することは、もはや芸術の域であるという意味であろうか。 ただし、芸術的かどうかは分からないが、トランプ氏が大統領に就任してからも、ご本人の“口”からも“指先”からも、Lie(嘘)、Fake(偽り)という言葉が頻繁に登場している。万が一、大統領ご本人が、“感じた事実”と違う事実と真実あるいは情報に対して、意図的に嘘、偽りであるとしたら、米国政府の信頼を揺るがす事態にもなりかねない。しかし、このような政治が広がる環境も整っている。SNSは都合のいいことに、“エコー・チェンバー(反響室)”と呼ばれるように、“感じる事実”に基づく情報が瞬時に広がって、共感する人々を密接につなげるツールになり得る。これほどの情報伝播のスピードと膨大な情報量がうずまく現代社会では、“感じる事実”が嘘、偽りということ自体が問題視されなくなることも考えられる。さらに政治においても民主主義においてポスト・トゥルース政治とSNSが組み合わされれば圧倒的な力になる可能性があり、権威主義国家と似た状態になることも考えられる。メディアの事実をベースとした記事を嘘、偽りとする可能性もあり、メディアの報道のあり方も問われよう。真実を真実と認識できることの重要性に改めて気づかされる。

外交、通商など対外的な交渉においても、2国間交渉に持ち込み、ポスト・トゥルース政治により、戦略的に嘘、偽りと決めつけ、相手国の譲歩を引き出すことのみに焦点が当てられてしまえば、これまで脈々と多国間で形成されてきた公益、規範、規制との根本的な齟齬が生じ、貿易問題等のグローバルな課題に向けた解決のプロセスが混乱することは回避できないであろう。これはトランプ大統領にとどまらず、他の主要先進国へ波及する可能性もあろう。先ほどの図表を再度見てみると、不幸中の幸いか、今年選挙が予定されているドイツ、フランス、オランダは両比率ともOECD平均より低い国である。

ジニ係数と貧困率における主要各国の数値とOECD平均との比較

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