気になる格差の数字
2016年12月15日
5年に1度の大規模な調査である「全国消費実態調査」(14年)について、所得分布等に関する結果が16年10月末に公表された。これによると、世帯1人当たりの経済厚生を表す等価可処分所得のジニ係数が、前回の09年調査と比べて低下した(下左図左軸)。ジニ係数は収入などの平等さを表す指標で、完全平等の0から完全不平等の1の間の値をとる。世帯主年齢階級別では、働き盛りである30~49歳で低下(格差縮小)が目立っている。
また、14年調査では相対的貧困率も09年調査と比べて低下した(下左図右軸)。相対的貧困率とは貧困線(全ての世帯人員を所得の順に並べて、ちょうど中央にくる人の所得の半分の額)を下回る所得の世帯人員の割合である。14年調査では、特に子どもの相対的貧困率が鮮明に低下した。現役世代や子どもに光を当てた政策が一定の成果をもたらしつつあるのかもしれない。
経済成長を優先することには、社会政策を重視する立場から批判がある。だが、因果関係はともかく、企業業績の改善や雇用の拡大、株価の上昇といったことと、貧困の減少や格差の縮小とは正の相関にあるのが、各種の制度が整備された成熟国家の姿であろう。重要なことは、格差の是正や経済の拡大が一時的ではない、構造的なものかどうかである。相対的貧困率は下がったが、実は貧困線の絶対的な金額は14年調査でも低下しており、分配面の強化のためにも経済成長は重要である。
格差の構造という点では、14年調査で資産面のジニ係数に気になる特徴が見られた。資産の種類別に世帯のジニ係数を見ると、不動産(住宅・宅地資産)で低下する一方、金融資産(貯蓄現在高)で上昇し、今回逆転したのである(下右図)。かつての日本では、地価形成上のリスクプレミアムが異常に低い(地価が高い)ことを背景に、家計資産に占める不動産の割合が高く、不動産保有の有無が世帯間の格差を作っていた。
近年になって金融資産で見た格差が拡大している理由としては、様々な要因が考えられる中で、働き方の変化も一因ではないか。日本的雇用慣行といわれる単一的な雇用体系の下に多くの人々が置かれていた中では、毎年の所得の一部である貯蓄の積み重ねで極端な差は生まれにくい。だが、年功ではなく各時点の生産性に応じた賃金の度合いが強まったり、雇用形態が多様化したりしている下で、金融リテラシーの格差がじわりと表れてきた可能性がある。
賃金後払いという、勤め先に対するエクイティや債権を実質的に保有する従前の雇用システムの下では、貯蓄する意図がなくても、傾きの大きい賃金カーブや退職金、企業年金があり、資産形成に腐心する必要はなかった。だが、働き方が変わればそれも違ってくる。現在の所得格差を縮小させても将来の金融資産格差が拡大すれば、より大きな問題になりかねない。確定拠出年金やNISAの仕組みを使い勝手よく拡充させるなど、資産形成促進について大きな方向性を打ち出すことが、働き方改革を真に成功させるための条件である。
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調査本部
常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
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