トランプ新政権の動向に気を揉むベトナム
2016年11月21日
米国の大統領選がトランプ氏の勝利という予想外の結末を迎えて以降、世界各国ではトランプ新政権誕生に伴う自国への影響に関し、侃々諤々の議論が行われている。
中でも議論が最も盛り上がっている国の一つはベトナムであろう。ベトナムはTPPの恩恵を最も受けられる国との評価を受けてきた。世界銀行がTPP発効による経済の押し上げ効果を試算したところ、2030年時点においてベトナムの実質GDPは加盟国の中で最も高い10.0%の押し上げ効果(2014年比)が見込まれるとされる。特に、繊維・衣料の輸出金額は米国の関税削減等の後押しを受けて、2030年時点で28%もの浮揚効果(同)が期待できるという。こうした期待を受けて、国外の繊維企業などがベトナムで工場建設を進める流れが生まれつつあった。
しかし、米国の大統領選でトランプ氏が勝利したことを受け、上記のシナリオ実現には暗雲が立ち込めている。同氏は選挙期間中に保護主義的な主張を繰り返し、TPPにも反対の姿勢を示してきた。同氏の主な支持層の一つである白人労働者層の一部は「米国外の廉価な製品が国内に流入したために、製造業を中心に雇用が米国外に流出した」との意識を強く持っている。このため、同氏が今後TPP賛成に転じるためにはかなり高いハードルを越えなければならない。
ただし、トランプ新政権下で中国を狙い撃ちにした保護主義的な政策が取られた場合、TPPが発効しないケースでもベトナム経済はプラスの効果を享受できるかもしれない。同氏は中国製品すべてに45%もの税率の報復関税を課すと主張しており、仮にこの政策が実現すれば、米国内における中国製品のシェアを奪う形でベトナム製品の輸出増に繋がる可能性がある。もちろん、中国への報復関税が発動されたとしても、結局はWTO協定違反との認定を受けて関税撤廃に追い込まれるケースもあり得る。この場合、ベトナムが得られる輸出浮揚効果はあくまで報復関税の発動から撤廃までという一定期間に限られる。
こうした事情を抱えるベトナムは日本など諸外国と同様、当面の間はトランプ新政権の動向に気を揉む時期を過ごすこととなろう。
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- 執筆者紹介
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経済調査部
主任研究員 新田 尭之
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