サマリー
◆2025年6月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月差+14.7万人と市場予想(Bloomberg調査:同+10.6万人)を上回り、過去分は上方修正された。また、雇用者数の3カ月移動平均は3月をボトムに3カ月連続で加速した。雇用者数については、民間部門の減速を政府部門の加速が補った。失業率についても、市場予想に反して4.1%と低下した。また、非自発的失業と非自発的パートタイム就業者は減少した。総じて見れば、6月の雇用統計は雇用環境の底堅さを示した。もっとも、トランプ政権の不法移民政策により、失業率は労働供給面では上昇しにくくなっている可能性があり、雇用面から見た景気悪化のシグナルを把握しづらくなっている点には留意する必要がある。
◆先行きについて、景気の下押し要因となり得る追加関税措置については、不確実性が高いままだ。日米間の関税交渉が難航していると報じられていること等もあり、相互関税の上乗せ税率は、完全に撤回されず、一定割合は残る可能性がある。6月初旬に鉄鋼・アルミニウム製品の関税を突如引き上げたことも踏まえれば、関税政策の先行きは予断を許さない。不確実性の高さによって企業の様子見姿勢が続くことで新規雇用が抑制されたり、追加関税措置に伴うコストアップによって、レイオフ・解雇が増えていったりするリスクは依然として残る。
◆金融政策に目を向けると、ウォラーFRB理事とボウマンFRB副議長は6月後半に、雇用環境がFRBの想定以上に軟化し始めることを懸念し、7月29日・30日の次回FOMCでの利下げを支持する可能性を示唆した。ウォラー理事はパウエルFRB議長と同様に全体の失業率は安定しているとしつつも、若年層の失業率がコロナ禍前と比較して上昇している点等を懸念点と指摘した。ボウマン副議長も軟調な総需要が雇用環境の悪化につながり始めている可能性を指摘した。こうした中、パウエル議長は7月1日に登壇したECBフォーラムのパネルディスカッションにおいて、7月のFOMCを含めて利下げの判断はデータ次第で会合ごとに決定していくとし、様子見姿勢一辺倒から利下げに向けてややスタンスの変化が見られた。もっとも、今回の雇用統計は、パウエル議長の雇用環境は底堅いという認識を変えるものではなかったといえる。7月のFOMCにおける利下げ判断については、会合までに公表されるインフレ指標(CPI、PPI)や小売売上高等が注目される。
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