新しい一歩を踏み出したTICAD(アフリカ開発会議)
2016年10月28日
ケニアの首都ナイロビでTICADⅥ(第六回アフリカ開発会議)が開催されてから、ちょうど2か月が経過した。TICADはそれまで日本での開催が通例であった。今回は、初のアフリカ開催であり、その運営を危ぶむ声もあったが、みごと盛会のうちにその責を果たした。
前回のTICADⅤは2013年6月に横浜で開催され、アフリカ51か国に加え、国際機関や民間セクター、NGOなどを合わせ、4,500名以上が参加した。「躍動するアフリカと手を携えて」を基本メッセージとし、「強固で持続可能な経済」、「包摂的で強靱な社会」、「平和と安定」という主要テーマに基づき議論され、2013年~2017年の具体的行動を記載した「TICADⅤ横浜行動計画」が宣言された。アフリカ自身の努力、女性と若者の役割、人間の安全保障の3点を特に重視するとともに、1.経済成長の促進、2.インフラ整備・能力強化の促進、3.農業従事者を成長の主人公に、4.持続可能かつ強靱な成長の促進、5.万人が成長の恩恵を受ける社会の構築、6.平和と安定、民主主義、グッドガバナンスの定着、7.フォローアップ・メカニズムの7項目が具体的な構成要素である。
今回のTICADⅥは、横浜を大幅に上回る11,000名以上(会場内のサブイベントを含む)が参加、アフリカからは53か国が駆け付けた。このうち日本人は約3,000名を数え、約200社の日本企業が現地入りした。日本の外務省関係者は約400名が参加し、現地で会議を切り盛りした。
開会にあたり、日本は2016年から2018年の3年間で、約1,000万人への人材教育をはじめ官民総額で300億ドル規模の質の高いインフラ整備や、強靱な保健システムの促進、平和と安定の基盤作りなどのアフリカの未来への投資を行う旨を宣言。さらに会議の最後では、TICADの優先分野として、①経済多角化・産業化を通じた経済構造改革の促進、②質の高い生活のための強靱な保健システム促進、③繁栄の共有のための社会安定化促進、という3つのピラー(柱)を掲げた「ナイロビ宣言」が採択された。ちなみに、この「ナイロビ宣言」は前回の「横浜行動計画」と一体を成すものとされており、両宣言が今後の行動の柱となる。
前回、今回の「宣言」を見る限り、方針に大きな変更がないようにも見えるが、経済環境を見ると実は大きく変貌した。アフリカ諸国の外貨獲得の主要な手段であった資源の価格は暴落し、またエボラ出血熱など感染症の疾病予防が大きな社会課題となった。また、ボコ・ハラムに代表されるような過激派の活動が活発化するとともに、紛争やテロも増加、さらに気候変動の影響も大きくなってきた。アフリカ諸国を取り巻く経済環境は一転し、一段と厳しさを増したのである。それだけに、今回のTICADでは、いかにアフリカ諸国が経済構造を変えていくのか、また人々の生活を豊かにしていくのか、といったことが従来以上に喫緊の課題となったのである。
単なる援助ではなく、アフリカ諸国の人々が自らの足で立っていけるような支援、これが求められている。こうした流れを受け、日本でも草の根的な動きが出てきた。日本人のアフリカでの起業を支援する動きである。活動はまだ始まったばかりではあるが、大きな一歩を踏み出している。
TICADはこれまで5年に一度の頻度で開催されていたが、今回のナイロビTICADⅥから3年に一度に変わった。次回2019年のTICADⅦは日本での開催となる。日本のアフリカに関する関心はまだ低い。しかし、アフリカを経済成長のラストフロンティアとして、その存在を意識せざるを得ない日はそう遠くないところまできている。共に成長していけるような仕組みをどれだけ作れるか、準備の時間は限られている。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
他市場にも波及する?スタンダード市場改革
少数株主保護や上場の責務が問われると広範に影響する可能性も
2025年12月03日
-
消費データブック(2025/12/2号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年12月02日
-
「年収の壁」とされる課税最低限の引上げはどのように行うべきか
基礎控除の引上げよりも、給付付き税額控除が適切な方法
2025年12月02日
-
2025年7-9月期法人企業統計と2次QE予測
AI関連需要の高まりで大幅増益/2次QEでGDPは小幅の下方修正へ
2025年12月01日
-
ビットコイン現物ETFとビットコイントレジャリー企業株式
2025年12月05日

