財政再建の新展開

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2016年06月09日

  • 調査本部 常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準

6月1日、安倍晋三首相は、18か月延期して17年4月に実施する予定だった消費税率10%への引き上げを、さらに30か月延期して19年10月にすると発表した。1回目の延期は、法律上の景気弾力条項に基づく政府の判断だった。対して、今回は弾力条項がない(政府は判断を求められていない)のだから、政府独自の全く新しい方針である。同じように見えるが、2回の意思決定の性格は根本的に異なる。

すなわち、必要な税率引き上げができていない責任は立法府にもある。憲法は租税法律主義を規定しており、税制を変更できるのは国会だけである。衆参とも約8割の賛成票で税率引き上げを決めたのは、12年の国会である。弾力条項削除と17年4月の税率引き上げを認めたのは15年の国会である。ところが、現在の立法府は、与党も野党も消費税率引き上げには反対か延期やむなしという感じになっている。

首相の判断は、そうした政治と内外経済の情勢を総合判断した結果だろう。安倍内閣の下で日本経済は明るさをかなり取り戻したことは間違いない。だが、消費者物価は3月以降、前年比マイナスの伸びである。物価安定目標を達成できる展望がない現状を踏まえると、本来はこれまでの経済政策の総括と戦術ではない戦略の練り直しが必要である。

もちろん消費税率の引き上げは必要であり、引き上げない間は、引き上げることを条件に実施を予定していた社会保障の充実は諦めなければならない。税率引き上げのタイミングも重要だが、消費税は社会保障目的税化されている。受益と負担の比較考量を行っていくという、考え方の土台が損なわれることがあれば大問題である。

6月2日には「経済財政運営と改革の基本方針2016」が閣議決定された。安倍内閣としては4度目の骨太方針である。20年度までに基礎的財政収支を黒字化させるという目標は引き続き掲げられ、昨年の骨太方針で示された「経済・財政再生計画」を着実に推進することが、改革の考え方の確認と具体的方向性とともに謳われた。

「経済・財政再生計画」は16~18年度が集中改革期間である。改革工程表を含む「経済・財政再生アクション・プログラム」が15年12月に経済財政諮問会議で決定され、安倍首相は、プログラムに基づいた改革を政府一丸となって実施するよう指示している。昨年の骨太方針で、18年度に計画の中間評価を行うとされていることを踏まえると、集中改革期間の中でも17年度予算が決定的に重要だ。

今後、社会資本整備、地方行財政、文教など、すべての歳出分野について、データとエビデンスに基づいた成長戦略としての歳出改革を進められるかが目標達成の成否を分ける。社会保障に関しては、医療・介護の供給サイドの改革やデータヘルスの強化を進めつつ、公平な負担や給付の適正化について制度改革案をまとめなければならない。社会保障制度の持続性向上を目的とした増税を延期するからには、それを梃子にした歳出改革の断行を政治に期待したい。

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鈴木 準
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