日本版ブラック・フライデーを考える
2016年04月19日
最近、消費喚起策の一つとして“日本版ブラック・フライデー”の開催が議論の俎上に載ろうとしている。政府の経済財政諮問会議(3月24日開催)の資料によると、600兆円経済実現に向けてのプロジェクトとして「シルバーウィークや春節などでの全国規模でのセールイベントの実施(日本版ブラック・フライデー)」を考えているようだ(※1)。
アメリカのブラック・フライデーは、祝日であるサンクスギビングデー(11月の第4木曜日)の翌日の金曜日を指す。小売各社が一斉に大幅な値引きを謳って宣伝し、消費者の購買意欲を刺激する一大イベントであり、クリスマス商戦の本格化を意味する。店によっては寒い夜中から人々が列をなし、深夜のオープンとともに人々が目当ての商品を目指して殺到しショッピングカートを一杯にするという光景がニュースで流れる。
ただ、近年では、ギフトカードの普及で小売店の売上計上の時期が後ずれしたり、はたまたサンクスギビング当日からセールが始まったり、あるいは大幅に前倒しでスタートするなど商戦の時期は拡散している。一方で、過剰な競争は小売店従業員の労働環境悪化を招いている面もあり、サンクスギビングは家族で集まって静かに過ごすという本来の姿に戻るべきと、あえて深夜オープンせずにちゃんと休む小売メーカーもみられるという。
また、インターネットの普及に伴って、ネット専業だけでなく、店舗型の小売各社もネット販売に力を入れており、連休明けの月曜日(サイバーマンデー)が大きな書き入れ時になっている。キャンペーンに促される面はあろうが、つまるところ、月曜日(マンデー)に出社して会社のパソコン端末(サイバー)で買い物に勤しむという、企業からすれば従業員の生産性低下を意味する行為も売上アップに貢献しているのである。
翻って、日本の小売商戦をみると、正月の福袋を求めてデパートに長い行列ができたり、お中元にお歳暮、父の日・母の日、そしてクリスマスやバレンタイン、ハロウィン(最近では恵方巻きやイースターも)と既に多くの冠がついたイベントが存在する。それらに“日本版ブラック・フライデー”が加わるだけの話かもしれないが、果たして、政府が様々な後押しや支援を行うほどのことなのか疑問が残る。
既存のキャンペーンを上回る、国を挙げての大きなイベントに育てようとしているのかもしれないが、大きくなればなるほど、買い控え、あるいはその反動減は無視できなくなる。いわば消費税率引き上げ前後に似た山谷が発生するだけであり、イベントを通じてトータルの消費支出額が増えるとは考えにくい。やはり賃上げなど地道に可処分所得の増加を追求することの方が王道であろう。
(※1)会議後の記者会見要旨によると、提案したある民間議員が、日本版ブラック・フライデーのタイミングや名称などの検討に着手した段階であり、前川内閣府政策統括官(経済財政運営担当)は、民間議員が“ブラック・フライデーが消費喚起に有効と考えて自主的に検討されていると解釈しております”と答えている。
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