所得格差と健康増進
2016年01月25日
2000年度に30兆円だった国民医療費は、2013年度に40兆円を超えた。公的保険に大きく依存する医療費の増加は働き手の保険料負担を重くし、財源を公費に求める割合が高いため財政悪化の主な要因にもなっている。この問題に取り組む安倍内閣は、医療提供体制の効率化だけでなく、個人や医療保険者が健康の維持と増進に向けて自発的に取り組むためのインセンティブ改革を重要な政策に位置付けている。
様々な活動を可能にする健康の維持と増進は、現在だけでなく将来の生活を豊かにするための投資である。ただ、健康なときにはその価値を感じにくく、それを失って初めて気付かされるものであるとも言われる。健康の維持と増進に関する意識の底上げを社会全体の課題と捉えて制度面から後押しすることは、結果として医療費の抑制につながるだろう。企業が従業員の健康に着目した「健康経営」を行って生産性を向上させようとしているように、健康の維持と増進は成長戦略の観点からも重要だ。
それでは、健康の維持や増進を促す余地が大きいのはどのようなグループと考えられるだろうか。切り口は無数にあるが、厚生労働省「平成26年 国民健康・栄養調査」(2015年12月)に、興味深い結果が示されている。すなわち、20歳以上について生活習慣と所得の関係を集計・分析した結果を見ると、男女ともに世帯所得の違いによって肥満者割合や健診の未受診者割合が異なっている(図参照)。
その差は特に男性において大きく、世帯所得200万円未満では600万円以上と比べて肥満者割合が1.5倍、健診の未受診者割合が2.7倍に達している。この結果は所得の違いによって食事内容や健康への意識の違いが生じていることを示唆する。実際、この調査では、600万円以上の世帯員と比べて、200万円未満の世帯員では穀類(炭水化物)の摂取量が多い一方、野菜や肉類の摂取量は少ないことが示されている。
所得が少なければ健康に配慮した食事をとる経済的余裕はそれだけ小さく、日常生活で健康の維持を優先することが難しいケースが多くなるということは想像に難くない。また、中小・零細企業の従業員や非正規雇用者の場合には、職場で健診を受ける機会が少なかったり、進んで健診を受けるという雰囲気がなかったりするのかもしれない。この点、保険者機能の強化が求められるところであり、加入者の健康づくりへの取組みにおいては、特に協会けんぽや市町村が運営する国民健康保険への期待が大きいと言えるだろう。
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経済調査部
シニアエコノミスト 神田 慶司