企業の健康経営推進を通じた地方創生の可能性
2015年12月22日
12月18日、政府が進めている地方創生総合戦略(以下総合戦略)の改訂案が発表された。
少子高齢化、首都圏一極集中などを背景にした地方の人口減少に歯止めをかけるため、国は2014年12月27日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」をもとに地方創生を推進している。総合戦略の基本目標は、①地方における安定した雇用を創出する、②地方へのひとの流れをつくる、③若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる、④時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する、という4点であり、それぞれKPIを設定して施策を進めている。現状を踏まえた見直しを行ったのが、今回発表された改訂版である。大きな枠組み自体に変更はないが、各々の施策の詳細や数値目標が修正されている。全般的には、施策がより具体的になっているというのが第一印象だ。
地方創生の基本的な考え方は、仕事・住む場所・子育てに良い環境をつくって地方への人の流れを進めるというものである。住みやすい町で、時間に追われない生活ができるのなら、地方で暮らしたいと思う人は少なからずいるはずだ。その際に一番の問題となるのが働く場所。脱サラして農業をやりたい、故郷で起業したいといった高い志を持つサラリーマンはそれほど多くいるとは思えない。都会で働くサラリーマンが今働いている仕事を辞めて地方へ移住するならば、少なくとも現在とそれほど変わらない生活レベルを移住先でも望んでいるはずである。しかし、地方でそのような働く場所を見つけるのは現状では容易ではない。
他方、全国にある約400万の事業者のうち99.7%が中小企業であり、その多くが慢性的な人不足に悩んでいるという現実がある。新しく産業を作らなくとも、今ある企業を、働き手が働きたいと思うような魅力ある会社にすれば、地方移住が進む可能性はあるのではないか。
そこで健康経営(※1)である。就活時に中小企業を受けた学生に理由を聞いた調査では、「やりたい仕事に就ける」「企業として独自の強みがある」「会社の雰囲気がよい」「出身地・地元に本社がある」といった理由が上位を占めていた。健康経営とは、社員の健康に積極的に関与し、社員が生き生きと働く職場環境を整えることで、結果的に企業の生産性改善につなげるという経営戦略である。実際、先進的な中小企業においては、健康経営を進めることで定着率の上昇につながっているという報告もある。一部自治体では、自治体や協会けんぽが中小企業の健康経営のサポートとして、補助金制度、専門家派遣・相談サービスなどを行っている。自治体として積極的に企業の健康経営に取り組むことは、日本再興戦略にも掲げられている健康寿命の延伸や医療費削減といった医療経済的側面だけでなく、地元企業の活性化を通じた地方創生にも大きな意義があると思われる。
(※1)健康経営はNPO法人健康経営研究会の登録商標。
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