トップの暴走をどう止めるのか
2015年12月18日
2015年を振り返ると内外ともに様々な企業不祥事があった。トップの関与が疑われたもの、そうでないもの、様々な類型があったが、いずれにせよ、トップが関与していた場合には、社外からは見抜けないし、ましてや社内では止められないとの指摘がある。
トップの暴走といえば、こうした不祥事がすぐに思い浮かぶ。しかし、当然ながら報道されるようなケースというのはごく一部で、実は様々な日常の場面においてトップの暴走は存在する。人事や投資、事業についての考え方、ガバナンスに対する理解など、むしろ普段の経営のオペレーションにおいて起こるのが通常である。ただし、そうは言っても必ずしも外部から確認できるわけではない。企業内部、深いところで発生し、内部で抑えきれなくなった際に、外部も知ることとなる。
いくつかの企業の経営幹部もしくは経営幹部経験者の方々にトップの暴走を止めるにはどうしたら良いかと聞いたところ、多くの方が「相談役しか止められないだろう」とコメントされていた。おそらくこれが実態であろう。しかしながら、これが実態であるとすれば、コーポレート・ガバナンスは極めて不安定な土台に立脚していると言わざるを得ない。
トップの暴走とトップのリーダーシップはある意味で、紙一重である。ある時点では「うちのトップは暴走している」と評価していた経営幹部が、ある時点を境に「リーダーシップのあるトップだ」と評価が真逆になることもあるだろう。暴走なのか、リーダーシップなのか、見極めもまた重要である。
先の文脈で言えば、この見極めを「相談役」が行い、暴走している場合には相談役自らがそれを正すということになるのだろう。しかし、この任を負うのは果たして「相談役」のみなのか。
ここで、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードをみてみる。経営トップの指名については、例えば、原則3-1(ⅴ)において「取締役会が(中略)経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明」を求めていたり、補充原則4-1③において「取締役会は、(中略)最高経営責任者等の後継者の計画(プランニング)について適切に監督を行う」ということを求めていたりしている。しかしながら、指名後のトップについては、補充原則4-3①の「取締役は、経営陣幹部の選任や解任について、会社の業績等の評価を踏まえ、公正かつ透明性の高い手続に従い、適切に実行すべきである」といったような記述しかない。
「だめだったら代えてしまえ」という指摘も理に適ってはいる。しかし、ゼロイチの議論ではなく、トップに自己変革の機会を作り、自らが気づいて正せるような仕組みを構築することも重要であろう。この役割は、取締役会にしろ、指名委員会などの委員会にしろ、トップを指名した会社の機関が担うべきではないか。指名した際の想定よりも何が良かったのか、どの点が想定に達していないのかといったことに対し、独立社外取締役を中心に評価、フィードバックを通じて担うことができるのではないか。
仕組みだけであれば多分すぐにでも作れるだろう。しかし、問題は実効性である。それには、トップ自らが、自己が評価されることに慣れる必要がある。批判ではなく、気づきのための評価であると、腹落ちさせることができるか否かがポイントとなる。
権力は魔物である。企業トップならずとも、例えば、係長やチーム長、課長であったとしてもこれに憑りつかれると、自分を見失ってしまうことがある。
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」—このことわざを今年の締めくくりとしたい。そして筆者自身もこの言葉を深く心に刻みたい。
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