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欧州の難民問題とトルコ

2015年12月01日

9月初旬にエーゲ海に面するトルコ南西部のリゾート地で、海岸に打ち上げられたシリア難民の幼児の遺体写真は世界に大きな衝撃を与えたが、今年に入り、シリアに加えアフリカなどからも大量の難民が地中海を渡り、国境を越え欧州へ押し寄せている。難民の多くは受け入れに寛容なドイツを目指しているとされるが、そのドイツにおいても短期間で大量の難民流入に対応しきれておらず、現地の混乱が報道されている他、国民からは政府に対する批判も聞かれるようになっている。

欧州へ向かう難民の半数を占めると言われるシリア難民については、その多くはトルコを経由してヨーロッパへ渡っている。こうしたことから、10月にはEU首脳会合において難民問題で国境管理の強化をトルコに求める「行動計画」が採択された。その後、ドイツのメルケル首相が難民問題を話し合うためにトルコを訪問するなど、EU側からはトルコとの協力が重要視されており協議が行われている。

一方、報道等によるとトルコはこうしたEUの姿勢を冷淡に受け止めている、と言われている。

2011年にシリアの内戦が始まって以降、トルコはシリア難民の最大の受入先となっている。政府によると、200万人以上のシリア難民がトルコ国内に滞在しており、このうち難民キャンプには約26万人、イスタンブールでは36万人超が暮らしている。難民の受け入れ費用として、トルコは4年半で80億米ドル(約9,600億円)以上を支出しているとされており、重い財政負担となっている。トルコはかねて、難民受け入れの重い負担とそれに対する支援を訴えていたにもかかわらず、欧州の関心は薄く、今年になり欧州に難民が大量に流入してからトルコに協力を求める姿勢に不信感を抱いているとされている。

トルコとEUの政治的な関係では、2005年にEU加盟交渉が正式に開始されているものの様々な事情から交渉は停滞している。トルコは今回、新たな難民キャンプの設置などを受け入れる代わりに、30億ユーロ(約3,900億円)の資金支援や観光でのトルコ人のEU域内へのビザなし渡航、EU加盟交渉の加速などを求めており、今回の難民問題への協力をEUに「どれだけ高く売れるか」ということになろう。EUへの加盟交渉が進展すれば、政権に対する支持率上昇につながることにもなる。一方でEU、特にトルコのEU加盟に消極的な立場のメルケル首相にとっては報道の自由や人権問題、政治の権威主義化などの懸念はあるものの、難民問題ではトルコに協力を求めざるを得ない状況であり、加盟交渉で「ドイツは助ける用意がある」と述べるなど、一部交渉に応じる可能性が高いと言われている。

ロシアによる空爆の開始やパリでの無差別テロの発生など、シリア内戦とISを巡る情勢はこのところ急速に変化しており、関係国の協議も始まっているが、現段階では内戦終結に向けた具体的な方策は決定されていない。こうしたなか、今後も難民が欧州へ向かう流れは続くとみられるが、パリの事件以降、EUでは国境管理の厳格化が議論されておりトルコとの協力が一層必要となろう。難民問題がEUとトルコの関係に変化を与えるきっかけとなる可能性が出てきている。

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