軽減税率のメリットは簡素な給付措置より大きいか小さいか

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2015年10月27日

17年4月に予定されている消費税率10%への引上げ時の軽減税率導入を巡り、政府与党内で議論が活発になっている。報道によれば、安倍晋三首相は自民党税制調査会の宮沢洋一会長に増税との同時導入を検討するよう指示したという。消費税増税に伴う低所得者対策として現在は「簡素な給付措置」が実施されているが、それと比べて軽減税率のメリットは大きいだろうか小さいだろうか。

一連の消費税増税が定められた税制抜本改革法の第7条は、低所得者に配慮する観点から、「総合合算制度」や「給付付き税額控除」、「複数税率(軽減税率)」の導入を総合的に検討し、その結果に基づいて速やかに必要な措置を講じることを政府に求めている。さらに同法は、それらの低所得者対策を実現するまでの暫定的・臨時的措置として簡素な給付措置を実施することも規定している。

他方、政治サイドでは与党税制改正大綱において、「消費税率の10%引き上げ時に、軽減税率制度を導入することをめざす(13年度)」「税率10%時に導入する(中略)軽減税率制度の導入に係る詳細な内容について検討(する)(14年度)」「税率10%時に導入する。平成29年度からの導入を目指して、対象品目、区分経理、安定財源等について、早急に具体的な検討を進める(15年度)」というふうに議論が進められてきた。

現在の簡素な給付措置では、住民税非課税世帯対象者約2,200万人に対し、年間の食料品費に係る3%の消費税率引上げ相当分とされる6,000円が支給されている。15年度予算では1,320億円(=6,000円×2,200万人)が計上されており、別途6,000円を配るための事務費が373億円計上されている。仮に消費税率10%への引上げ時も税率5%を基準に、5%の引上げ相当分を簡素な給付措置で対応するとすれば、予算規模は約2,600億円(=1,320億円÷3%×5%+373億円)になる。簡素な給付措置は他の制度を通じた各種の低所得者対策との関係を考慮しておらず、保有資産も考慮されていないといった点で、真の弱者を十分には選別していない原始的な低所得者対策である。

それでは、簡素な給付措置をやめて軽減税率を導入した場合はどうだろうか。酒類を除く飲食料品を軽減対象とする場合、与党資料によると単一税率と比べた減収額は1%あたり6,600億円程度であるから、税率2%分とすれば1.3兆円程度、税率5%分とすれば3.3兆円程度になる。簡素な給付措置と同じように飲食料品を軽減対象としているにもかかわらず、負担軽減額が格段に大きくなるのは、制度の恩恵が全国民に及ぶためである。

そのため軽減される対象品目の範囲にもよるが、日本全体でみると家計の実質可処分所得へのプラスの影響は簡素な給付措置よりも軽減税率の方が大きそうである。しかし、肝心の低所得者にとっては必ずしも軽減税率の方が望ましいとは限らない。仮に飲食料品の消費税率を8%に据え置き、その他の品目を10%へ引き上げるとしても、5%から8%への引上げ分に対応する簡素な給付措置は恐らく廃止されてしまうからである。

日々の生活の中で痛税感を緩和することが軽減税率導入の趣旨と言われる。ただ、低所得者に対する配慮は所得税改革や現金給付でも可能である。もともと消費税収は低所得者向け政策の財源という性格があり、消費税だけでこの問題を考えることの難しさがある。軽減税率の制度設計がどうなるかはともかく、消費税増税に対する国民的理解の一層の醸成や真の弱者に対する配慮について、より広い観点からの検討を期待したい。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司