どのような利益を私たちは期待しているのか

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2015年10月16日

  • 引頭 麻実

10月下旬から上期(第1、第2四半期の累計)決算が発表される。業績が良かった企業、厳しかった企業、様々な発表が予想される。普段私たちが、業績が良いとか厳しいという場合の判断基準は利益である。儲かったか、そうでなかったかということになるのだが、この「利益」というのが曲者だ。

利益は、企業会計基準というルールに基づき算出される。ルールに従うのであるから、一見、会計処理において企業間に差は無いように思えるが、そうではない場合もある。同じ金額の利益を2つの会社が計上していたとしても、その内容には差があるということが珍しいことではなくなってきている。

時価会計の考え方の導入などに見られるように、会計処理には見積もりや評価といった作成者側の考え方が重要な要素となってきた。例えば、工事進行基準、原価の見積もりや配分、のれんの評価などがそれにあたる。慎重な企業もあれば大胆な企業もある。当然ながら会計基準に則して処理されているのであれば、会計上は問題がないわけであるが、外部からみるとその差は分かり難いのが実情である。

国際的な会計基準を設定する国際会計基準審議会(IASB)では現在、「財務報告に関する概念フレームワーク」の公開草案を公表し意見を求めている。概念フレームワークとは、会計基準の基盤、基礎となる枠組み、考え方を示したものである。会計基準の哲学とも言える。そこでは資産や負債の定義、売上や費用についての考え方、また測定の考え方など多岐にわたり定義されているが、残念ながら利益の定義については記述がない。資産や負債、売上や費用をきちんと測定、計上することにより、結果として利益が算出されるという考え方なのかもしれない。

利用者としては、利益の定義がないことに、ある種の失望感を覚える。会計基準が複雑化すればするほど、どのような利益が表されるのかについて、利用者としても関心を持たないわけにはいかないからだ。しかし、現実をみると、IASBでは利益を定義することには当面慎重な姿勢のようである。

しかし一方で利用者側からの意見発信もやや乏しい。基準設定主体に対して、利益の定義は望むが、利用者としてどのような利益を示してほしいのかについての視点はまだ十分ではない。実態をよく研究し、整理することを通じて、何等かの軸となる考え方を持つ必要があるのではないか。概念フレームワークの改訂も長い時間をかけて行われている。利用者側の軸となる考え方が形となるには、想像以上の時間が必要となるかもしれない。しかし、まずはその一歩を踏み出すことから始めたい。

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