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GPIFの国連責任投資原則(PRI)署名のインパクト

2015年10月02日

調査本部 研究主幹 河口 真理子

9月28日、日本の資産運用業界に大きな影響を与えるニュースが飛び込んできた。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による国連責任投資原則(PRI)への署名である(※1)。生憎29日の日経平均17,000円割れを含め世界的な株安のニュースで運用現場ではまだそれほど注目されていないが、日本の運用業界の地殻変動をもたらすものと考える。

PRIとは2006年に国連の主導で発足したESG投資の世界的なプラットフォームで、2015年9月30日現在で1,394機関が署名している。署名するのは、GPIFをはじめとした年金基金などの資産所有者(289機関)、その運用を手掛ける運用機関(916機関)とサービス提供機関(189機関)で、署名機関は、投資プロセスにおいて財務情報に加えて、環境(E)、社会(S)、コーポレート・ガバナンス(G)を考慮することなどが求められる。

実は以前から、環境や人権に配慮する投資は社会的責任投資(SRI)と称されてきた。このSRIは、1920年代に米国のキリスト教会の資産運用の際アルコールなど教義にはずれる事業を投資対象から排除したことから始まる。その後、反戦や公民権運動など社会運動の一環として、株主行動として企業に社会的な対応を求めるようになった。つまり、SRIとは投資リターンではなく、投資家の宗教的社会的価値観を反映させた投資と理解されてきた。これに対しESG投資は、投資パフォーマンスを上げる手段としてESG要因を考慮するものである(※2)。GPIFでも署名の理由を「投資先企業におけるESG(環境・社会・ガバナンス)を適切に考慮することは・・・・『被保険者のために中長期的な投資リターンの拡大を図る』ための基礎となる『企業価値の向上や持続的成長』に資するものと考える」(※3)としている。

ESGを考慮することが、なぜリターン向上につながるのか?短期的な運用においては毎日の相場動向や短期的な業績動向が株価の重大な変動要因とされるが、長期的な運用の場合は短期的な業績動向では十分ではなく、10年先、20年先を見据えた人材戦略や研究開発戦略、環境戦略など数字に表れない定性的な要素も不可欠となる。

実際に、ESG要因と株価リターンの相関性を示す調査分析は増えている。参考までに当社でも企業のCO2排出量、独立取締役数、女性活躍などと株式リターンとの正の相関関係を示す分析レポートを出している(※4)。そして投資家がESG情報を重視すれば、企業もESGの取り組みを促進するインセンティブになる。それは回り回って社会全体の環境保全や人権配慮などを向上させると期待され、それは国民の大事な資金を預かって運用する公的年金の果たすべき社会的責任とも理解されている。

なおこの署名はGPIFの運用を変えるだけではない。GPIFは運用受託機関に対してPRI署名とその活動について報告を求め、署名していない場合はその理由を求めるとしている。つまりGPIFの運用受託機関は、正当な理由が無い限りPRIに署名しESG投資を手掛けざるを得ない。更にGPIFは他の公的年金や企業年金のベンチマークでもある。同様の動きは他の年金基金にも早晩広がると予想され、ESG調査がどの運用機関でも標準装備になる日も近いはずだ。

ESG投資の世界シェアが1%にも満たない日本では実感できないが、GPIFによるPRI署名が世界にもたらす波及効果は計り知れない。安倍首相は9月27日NYの国連サミットのスピーチの中で、貧困撲滅や気候変動問題への積極的関与とともにGPIFがPRIに署名し、そしてそれが持続可能な開発の実現に貢献する、と表明した(※5)。世界が日本の貢献に注目しているのである。

(※1)年金積立金管理運用独立行政法人 プレスリリース「国連責任投資原則への署名について」平成27年9月28日
(※2)ESG投資の概要については、以下に詳しく論じている。「ESG投資」(2014年6月4日、河口真理子)
(※3)脚注1に同じ。
(※4)「CO2排出量の動向と企業パフォーマンス」(2015年7月17日、伊藤正晴)
ESGポートフォリオのリターン分析②」(2015年3月11日、伊藤正晴)
ESGポートフォリオのリターン分析①」(2015年2月6日、伊藤正晴)
(※5)首相官邸「持続可能な開発のための2030アジェンダを採択する国連サミット 安倍総理大臣ステートメント」平成27年9月27日

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