CCSの成功にはCO2の再利用促進が必要か

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2015年09月18日

  • 引頭 麻実

先日CCSの実証プロジェクトを視察させていただく機会を得た。CCSとはCarbon dioxide Capture and Storage のことで、二酸化炭素を回収し、それを地層に圧入して貯留する技術のことを指す。CO削減の一つのアプローチである。現在、北海道苫小牧にて、日本CCS調査株式会社が取り組んでいる。日本CCS調査株式会社は、電力会社、ガス会社、エンジニアリング会社、商社、素材メーカーなど錚々たる顔ぶれの35社を株主としている。

このプロジェクトは通称「苫小牧プロジェクト」と呼ばれ、経済産業省から委託を受け進められている。2008年度から2011年度を調査期間、2012年度~2015年度を準備期間、2016年度~2020年度をCOの圧入・モニタリング期間とし、2020年頃のCCS技術の実用化を目指すとされている。現在は、準備期間の最後の年度で、設備の設計、建設、坑井の掘削、操業の準備などが行われている。

プロジェクトの目的はCOの分離・回収から貯留までのCCS全体を一貫システムとして実証するということなどに加え、CCSが安全かつ安心できるシステムであることや、地震に関連する不安を払拭することなども掲げられている。そうした背景もあってか、情報発信活動を大変活発に行っている。2014年度の現地見学者は600名あまり、2015年度は2000名に迫る勢いであり、パネル展や講演会、子供向けの科学実験教室の開催など、多面的に取り組んでいる。新しい技術を社会に導入するための基盤作りを丁寧に行っている姿が見て取れる。

実はCCSはすでに海外では実用化されている。ノルウェーの「スライプナー(1996年から圧入開始)」や「スノービット(2008年から圧入開始)」がその例であり、その圧入実績は、それぞれ100万トン/年、70万トン/年となっている。ちなみに苫小牧プロジェクトでは10万トン以上/年が想定されている。ノルウェーの「スライプナー」はすでに初期投資を回収したとされているが、これには税制によるところが大きい。というのは、炭素税として1トンあたり40ドルを課すというものが打ち出され、その結果CCS投資が進んだのである。

CCSはコストがかかる。税制の賛否はともかくとして、このような特殊事情が無い限り、CCS単独ではその投資回収は難しいと一般的には理解されている。他の事例をみると、石油回収法の一つであるEOR(Enhanced Oil Recovery:増進回収法)においてCCSを導入するケースも多い。地下に存在する原油の回収法には1次から3次まであるが、EORは3次回収法にあたる。CCSで得たCOをEORで活用することで、全体としてのコスト効率化が目指されている。しかし残念ながら石油資源をほとんど持たない日本では、EORとの組み合わせは難しく、CCS実用化においてコストの壁が立ちはだかる。COの積極的な活用法が同時に必要とされている。

日本でも少しずつではあるが、COの利用、活用について大胆な研究が始まっている。例えば植物が行う光合成を人工的に行う人工光合成技術を用いて、水とCOからペットボトル樹脂原料を作った事例や、メタン菌を使ってCOをメタン(CH)に変換する技術が開発されたり、また、農業において光合成を促進させるために適切な量のCOを供給することによって収穫量の増大をはかる取り組みがなされているなど、すそ野が広がっている。

地球温暖化の原因とされ、目の敵にされているCOであるが、ただ単に削減を促すだけではなく、その利活用を促すような取り組みも同時に必要とされているのではないか。

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