監査法人のガバナンスと開示

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2015年08月19日

  • 吉井 一洋

東芝の不適切会計問題の第三者委員会報告書では、担当監査法人の責任に関しては「会計監査人の監査の妥当性の評価、すなわち、監査手続や監査判断に問題があったか否かを調査することを目的としていない」として、直接の判断を避けている。他方で、担当監査法人を批判する論者や公認会計士の方もおられるようである。筆者は監査の実務はわからないし、現在公表されている事実から担当監査法人の責任の有無を論じることもできないが、事業法人のコーポレート・ガバナンスの改善が国策として求められている中で、監査法人のガバナンスの実態がどうなっているのか、気になるところではある。しかし、現状は必ずしもこの点について、筆者のような素人から見てわかりやすい説明は行われていないように思われる。

監査法人の組織について概略を説明すると、公認会計士法では、5人以上の公認会計士を含む社員が共同で定款を定め出資をして設立の登記を行えば設立できる。監査法人は、公認会計士である社員を中心とする組織であり、会社法のうち、経営と所有の分離を前提としない持分会社の規定が多く準用されている。従来は、社員による相互監視等を前提とした無限連帯責任形態のみであったが、2007年6月の公認会計士法の改正により、2008年4月から有限責任監査法人も認められることになった。有限責任監査法人では、財務書類の監査証明ごとに業務を担当する社員(公認会計士のみ)を指定し当該社員はその監査証明に関して生じた債務に対して連帯して責任を負う。それ以外の社員は出資額に責任が限定される。有限責任監査法人は登録制であり、最低資本金が設けられている他、損害賠償リスクへの対応のため金銭の供託・損害賠償責任保険の締結が求められる。

同法では、社員の業務執行の権利義務、公認会計士である社員の監査法人の意思決定への関与(定款による)、法人の代表(公認会計士である社員が各自代表するが、全員の同意で代表社員を決定可)、監査人の独立性(被監査会社からの独立、非監査証明業務の同時提供の禁止、就職制限、ローテーション・ルールなど)、業務管理体制の整備、計算書類を含む「業務及び財産の状況に関する説明書類」の公衆の縦覧なども定められている。収益の額が10億円以上の有限責任監査法人の場合は、当該計算書類に利害関係のない公認会計士・監査法人の監査報告書を付すこととされている。さらに、チェック機関である公認会計士・監査審査会、金融庁による行政処分等の規定などが盛り込まれている。

上記の説明書類の記載内容は規則に定められており、日本公認会計士協会がひな型を公表している。ひな型では、監査証明業務のみならず非監査証明業務についても一定の説明を求めている。非監査証明業務は監査法人の子会社のコンサルティング会社によって提供されている業務もあると思われるが、大手監査法人の説明書類を見ると、子会社の業務も含めた記述がある例とない例とがある。また、「業務管理体制の整備及び業務の運営の状況」の記載の中で、監査法人の経営組織、独立性の確保やローテーション、人事評価・報酬決定等の記述はあるが、法人ごとに記述内容はかなり異なっている。経営組織について、組織図をウェブで別途掲載している監査法人もあるがわかりやすくはない。独立性やローテーションに関しても、規則等を遵守している旨の記述はあるが、具体的な基準までは公表されていない。人事評価・報酬決定も、記述内容に開きがある。被監査会社の投資家が見て監査法人のガバナンスの実態がある程度理解できるよう、開示を充実してはどうであろうか。

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