世界的な環境課題と日本の環境産業の動向

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2015年08月12日

  • 伊藤 正晴

2015年7月に公表された、環境産業市場規模検討会「環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」によると、2013年の国内環境産業の市場規模は約93.3兆円と推計されている。環境産業全体の市場規模は2000年から拡大が続き、2009年には金融危機の影響で一時的に縮小したが、その後も連続して拡大し、2013年には過去最大の規模に達している。分野別では、地球温暖化対策分野の拡大が目立っている。2000年の市場規模は分野別で最も小さい3.8兆円だったが、2013年には2番目に規模の大きい28.2兆円まで拡大した。

環境産業と日本経済との関係では、2013年の環境産業全体の付加価値額は約40.1兆円と推計されており、名目GDPに対する比率は8.4%となった。環境産業の付加価値額は、市場規模と同様に2009年を除いて連続して増加しており、付加価値額の名目GDP比率も2000年の5.5%からほぼ上昇が続いている。環境産業の動向が日本の経済成長に与える影響が大きくなっていることがわかる。

地球温暖化対策分野の市場規模の拡大が環境産業全体の市場規模の拡大を牽引していると言えよう。エコカーや省エネルギー電化製品の普及、省エネルギー住宅やビルの建築などが市場規模の拡大に寄与したようである。その背景として、世界全体で温室効果ガスの削減が課題となっていることが挙げられる。2015年11月末~12月のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)に向けて、各国が新たな温暖化対策の約束草案を国連に提出しており、日本も2030年度に2013年度比で温室効果ガスを26%削減することを目標とする約束草案を提出した。世界各国で温室効果ガスの排出削減を進めていくことは、環境産業の地球温暖化対策分野の成長につながろう。

また、世界的な環境課題としては、水の問題がある。世界経済フォーラムでは、今後10年間に発生する可能性の高さや影響などからグローバルリスクを評価し、「グローバルリスク報告書」として毎年公表している。報告書の2015年版では、影響が最も大きいリスクとして「水の危機」を挙げており、新興国を中心に水ビジネス市場の拡大が予想される。水ビジネスの海外市場への取り組みとしては、環境省「アジア水環境改善モデル事業」がある。急速な成長を続けるアジア諸国で、人口増加による生活排水の増加や、工業化に伴う産業排水の増加が顕著となり、水環境の悪化が進んでいる。そこで、日本の企業が持つ優れた水処理技術を普及展開することで、アジア地域の水環境を改善するため、本事業が実施されている。事業は、「中小・中堅企業及び地方自治体の優れた水処理技術等の海外展開支援」(同事業資料による)として進められており、環境産業の成長だけでなく、地方自治体や地元企業の海外展開にも寄与しよう。

経済成長と環境保護を両立させる「グリーン経済」の実現が世界的な課題となっている。公害対策などの経験や高い技術力を持つ日本の環境産業にとって、世界的な環境課題への取り組みは大きな機会と考えられよう。そして、環境産業の市場拡大は日本経済の成長につながるとともに、世界の持続可能性の向上に寄与することが期待される。

環境産業の分野別市場規模と付加価値額の名目GDP比率

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