AI(人工知能)時代には人間の考える力がますます重要に

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2015年07月17日

  • 引頭 麻実

この数年、AI(人工知能)に関する話題がホットになってきた。その火付け役は2011年2月、IBM社が開発した「Watson(ワトソン)」が、米国の人気クイズ番組「Jeopardy」に挑戦、人間の挑戦者に勝ったという話題だった。知識の量で機械が勝つのは当たり前に思えるかもしれないが、機械にとっての本当のハードルは、自然言語で作成された質問そのものを理解することだ。ワトソンはこの自然言語処理をさらに高度化、進化させることなどを目的に開発された。

全ての自然言語パターンをプログラミングするのは途方もないことだが、そこで利用されたのが、コンピュータのプログラミング技術の一つであるAI技術である。AIとは、人間と同じような知的活動の機能を備えたコンピュータを指すが、それには自然言語の理解、推論、学習、判断等々といった機能を兼ね備える必要がある。ただし、これらはあくまでもプログラムであり、人間に似せた人工の知能体を造る、というわけではない。IBMではワトソンをコグニティブ(認知、認識)・コンピューティングと呼んでいる。クラウド上にある大量のデータから必要な情報を検索し、仮説を立て、それを検証、評価するとともに、その一連の機能を自ら学習(機械学習)するというプログラムである。ワトソンはすでに実用化の段階に入りつつある。その背景としては、ディープラーニング(深層学習)という技術の発達が非常に大きい。人間の神経回路のように多層化されたなかで情報を導き出すという機械学習が可能となってきたことで、開発に拍車がかかった。

昨年10月のIBMの発表によるとすでに25ケ国で実用化に向けての取り組みが始まっている。日本でも、ソフトバンク社がワトソンを搭載したロボット「ペッパー」を発売したほか、数社の金融機関が実用化に向けて開発に着手している。コールセンター等での活用が検討されている模様である。

もちろんAIの研究はIBMばかりではない。多くの大学や研究機関がそれぞれ独自のアプローチでAIを進化させている。自動車、ロボット、ドローン、スマートホーム、エネルギー、インフラ関連、医療や介護の現場等々、様々な分野でAIの活躍が期待されている。

このようにみると、すぐに生活に入り込んできそうなAIであるが、その実用化にはまだまだ試練がある。最大の課題は学習の内容そのものだ。仮に同じAIのプログラムを同じ業種の2社が購入したとしても、当然ながら両社でAIの“育て方”は異なる。それぞれの企業での経験(=情報の内容)が異なるためである。とすれば、当然ながら育てられたAIの“ふるまい”には差が生じることになる。同じAIを活用したとしても、ビジネスにおいての効用が同じとは限らない。では育てられたAIを購入すればよいではないか、という議論が出そうだが、現在のところ、納入するAIは白地が想定されており、導入先駆企業のノウハウは搭載されない模様である。

ここが、人間の出番であり、力の見せ所となる。AIをどのように育てていくのか、AIが仮説を立て検証した解について何を“よし”とし、何を“よし”としないと判断させるのか、こうした根幹の部分については、当該企業の哲学や考え方が大きく影響する。根幹の部分がしっかりしていなければ、AIの効用は人類の期待とは程遠いものになりかねない。

AIはツールである。これを活用して何をするのか、どういう状態にしたいのか、設問を設定するのは人間である。AI実用化の初期段階の今こそ、我々人間は、より深く考えなければならない。AI時代こそ、人間の考える力がより重要になるのである。

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