「今年」の株主総会のテーマはコーポレートガバナンス・コード?

コーポレートガバナンス・コード雑感Ⅲ

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2015年07月02日

最近、筆者が特に回答に苦労した「総会シーズン」にちなんだ質問がある。

「やはり、今年の株主総会のテーマはコーポレートガバナンス・コード(CGコード)ですよね?」

「その通りです」との回答が当然返ってくるという期待が質問者からひしひしと伝わってくるだけに、なおさら筆者としては答えにくい。

確かに、多くの上場会社の担当者は、CGコード対応に忙しい。株主・投資者も、CGコードがもたらす上場会社のコーポレート・ガバナンスの変化に大きな関心と期待を寄せている。マスメディアも、CGコードが求める独立社外取締役の複数選任などに関連する話題を報じている。CGコードが注目されていることは事実だろう。

しかし、こうした質問の背後には、CGコード対応は「一回限り」のもの、つまり、「今年、独立社外取締役を二人選任して、『コーポレート・ガバナンスに関する報告書』(CG報告書)で『コンプライ・オア・エクスプレイン』をすれば、それでおしまい」といったニュアンスが感じられる。筆者が懸念を抱くのは、この点である。

そもそもCGコード対応は、あくまでも「手段」であって、それ自体が「目的」なのではない。例えば、関心の高い「独立社外取締役」についても、「選任」そのものが目的なのではない。選任後、どう機能させるかが重要なのだ。

また、CGコード対応によるコーポレート・ガバナンスの改善が、その目的(CGコードが掲げる(会社の)「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」であれ、筆者が考える「会社に対する株主・投資者・市場の信頼の構築」であれ)の実現に向けて、即効性があると主張する者はほとんどいない。乱暴な喩えだが、コーポレート・ガバナンスの改善は、特効薬を飲んだらたちまち病気が治るといった性質のものではない。むしろ、生活習慣の改善(適度な運動、バランスのとれた食事など)を地道に積み重ねることが、将来の健康につながるという考えに近い。その意味で、コーポレート・ガバナンスの改善が「実を結ぶ」ためには、一定の時間が必要であり、その効果は長い目で見なければならない。「生活習慣改善としてウォーキングを始めたが、大変な割に目に見える効果もないから3日でやめた」というのでは困るのである。

そして、特に重要なのは、CGコードが「株主との対話」(第5章)を掲げていることと、CGコードとスチュワードシップ・コード(以下、Sコード)が「車の両輪」と位置づけられていることである。これを、筆者なりに整理すると次のようになる。

CGコード対応(独立社外取締役の選任、CG報告書における『コンプライ・オア・エクスプレイン』など)という形で上場会社が投げた「ボール」は、今度は、Sコードに基づくスチュワードシップ責任を負う機関投資家等が、建設的な「目的を持った対話」という形で投げ返すことが予定されている。上場会社は、機関投資家等から投げ返された「ボール」(意見、懸念など)を真摯に受け止めた上で、改めるべき点は改め、理解を得るべき点は丁寧に説明を行うという形で、さらに投げ返す。

こうした「対話」を積み重ねることで、さらなるコーポレート・ガバナンスの改善や、株主・投資者・市場との信頼の構築を進め、ひいては(上場会社が)「経営の正当性の基盤を強化し、持続的な成長に向けた取組みに邁進する」(CGコード基本原則5「考え方」)ことにつなげるというのが、両コードの目指す方向だろう。そう考えれば、上場会社による今年の取組みは、あくまでも「起点」にすぎないはずだ。

以上を踏まえ、最初の質問に対する筆者の回答は、次の通りである。

「そうですね。ただ、本当に大事なのは、むしろこれからです。」

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳